「ミア」
ロシュオールはミアが寒空の中、部屋ではなくバルコニーに立っているところを見つけ、声をかける。
「何、ロシュ」
「そんな薄着でいたら風邪引くぜ」
「心配してくれてるの?」
「あのなぁ」
「冗談よ」
そう微笑んでミアはロシュオールから羽織を受け取った。
星が瞬いてるのをミアはずっと見続けている。
先ほどから戻れとロシュオールが言い続けてもミアは頷くだけでそこを動こうとしない。
「なぁ、どうしたんだよ」
「別に」
ミアはロシュオールの問いをさらりとかわす。
「別にって、大体いつからここにいんだよ。お前の手、結構冷たかったぞ?」
少し前にふと触れた手が冷え切ったことをロシュオールは思い出す。
死ぬことがない巫女とはいえ、怪我はするし、病気にだってなる。
巫女や従騎士にとって永遠の時を生き続けると言うことはそうでないことに比べて完治するか完治しないかの差。
ただそれだけだ。
だから、風邪を引くのも心配する。
ミアは巫女という責任感から無茶や無理をすることが多い。
そのことが原因で病にかかったり、大けがをする事が多々あった。
完治するから。
とそのことをミアはどちらかといえば軽く見ているが、心配する従騎士ロシュオールやランディールからすれば、たまったものではなかった。
「大丈夫よ、ロシュ。心配しなくても」
「オマエさぁ、俺が風邪引いたとか言ったら大騒ぎしたじゃねえか。あれと自分とどう違うんだよ」
「私の事じゃないもの。ロシュのこと心配しては駄目なのかしら?」
「そうは言ってないだろ?はぁ、もう分かったよ。とことんまでミアに付き合ってやるよ」
ロシュオールはそう言いながらため息をつく。
「ただね、ここから見える、街の様子を見たかったの」
ため息をついたロシュオールを見ながらミアは呟く。
「街の全景は、ここからよく見えるから」
ミアの部屋は高い位置にあり、そこからはゴルドバの様子がはっきりと見て取れた。
「ここからなら人々が安心してるかそれとも不安なのかが分かるから」
ミアはゴルドバの巫女。
ゴルドバの巫女は世界の守護者。
彼女の部屋からゴルドバの街がよく見えるのは、この町を守護するための意味が大きく関係しているからだ。
「だから、ここから見たかったの」
そう言ってミアはうつむく。
「不安、なのか?」
「……わからない」
何を言いたいのか、何を言って良いのか分からずミアは首を振る。
「ミア、俺とランはちゃんとミアの従騎士だからな」
従騎士は巫女と同じ時を生き、巫女のために生きる。
そのことを確認するかのようにロシュはミアに言う。
「分かってるわ」
「ちゃんと、ミアのそばにいるから」
「……ロシュ、ありがとう」
そう言ってミアは顔を上げ、もう一度街を見てそして部屋の中へと戻る。
夜の教会で鐘がなる。
人は眠りにつく頃なのだろうか。
明かりがぽつぽつと消えていく。
明日もまた、平和であるように。
いつもと変わらない日常が過ぎるように。
ロシュオールはミアに倣って街を見てからミアの後を追って部屋に戻った。
本編中かな?