プロローグ依頼時間思惑協力エピローグあとがき
「随分と悠長に構えているね」
「そうですか?」
 問いかけられた言葉に冴子はしっとりと微笑む。
「私には、彼らが何かを隠しているのを君は知っているとしか思えないんだが…」
「それはないですわ、優作先生」
 甘えるような声を出してしまうのは、その男の声色が記憶の中にある『男』の声に似ているからだろうか?
「こう言ってはなんですけど、私は宝石が戻らなくても構わないんですの。私が彼にした依頼は『彼の命』の優先。出来れば、『彼の組織』もついでに消してくれると助かるんだけど、それ以上は望めないでしょ?」
 小首をかしげて言う冴子に優作は苦笑をする。
「それに、どの道戻ってくる宝石ですわ。撩の事だもの、絶対怪盗キッドに接触する。私の依頼を受けるならばそうせざるを得ない。だったら、のんびり構えていればいいと思いません?どうせ合図はこれがくれますわ」  そう言って冴子はにっこりと微笑んで何かの機械を優作に見せる。
「そこに頭が回った君に恐れ入るよ」
「あら、ご冗談を。あなたも考えていらっしゃったでしょう?」
 冴子の言葉に優作はにっこり笑って躱すだけだった。
協力:飛び散る光七色
「で、この後どうするの?」
 香がこのホテルの見取り図を見ながら聞いてくる。
 脱出の算段だが、警察がどう張り込んでいるのか今一つ想像が付かない。
 強制的に脱出するのが一番だが、大人数ではまず無理だ。
 二手に分かれるのが一番なのだが…さて。
「中森警部は何処に張ると思う?」
「…ん〜、常套手段としては屋上。変装して1階から抜け出すってもあるけれど…ここから1階まではちょっと厳しすぎる。だとするならば空中庭園があるこの24階、12階って所だけれど……」
 そこはおそらく警察は張り込んでいるだろうな…。
「気になるのは…工藤親子の言葉だ」
「なんて言ってたの?」
 会話を聞いていない香はおれに問いかける。
「『RAINBOW RAINBOW』は絶対に、このホテルから出る事は出来ない」
「どういう事?何か仕掛けがしてあるの?」
「さて?」
「爆弾…んな訳ないか。もったいなさすぎるわ」
 ぼそっと呟く香に思わず苦笑する。
 お前だったらやりそうじゃねぇか。
 とは言わないで。
「だとすれば、出られない訳じゃないわよね」
「まぁ、そうだな」
「じゃあ、なんで?」
「抜け出せない…出られない…。って事は出たら分かるって事だよな」
 そう言って、キッドは宝石を見つめる。
 発信機はついてないはずなんだが………。
「寺井ちゃん、ちょっと写真」
「どうかなさいましたか?」
「冴羽さん、これ何かついてる」
 そう言ってキッドはおれに宝石と写真を見せる。
 写真は『RAINBOW RAINBOW』の写真。
 見比べれば何かつけられていると言うのは一目瞭然だった。
「やれたよ…。新一の奴…騙しやがって」
「新一君に騙されたって言うのとちょっと違うような気がするんだけどなぁ〜」
 青子ちゃんの言葉にキッドは少しだけふてくされる。
「知り合いか?あのガキと」
「ま、一応友人。向こうはこっちの正体知らないけどね」
 そうキッドは自嘲気味に微笑む。
「元々、知り合いじゃなかったんだけど、青子が蘭ちゃんと…新一の彼女ね、知り合って。そのついでにおれ知り合いになったって感じかな?」
「自分を捕まえようとする探偵と知り合いとはな…」
「言えてる。ついでに言えば、青子は中森警部のお嬢さんだしな」
「青子はずっと快斗に騙されてたんだから。さっさと言ってくれればいいのに」
 なんて言いながら微笑んでる青子ちゃんにキッドは少しだけ顔をゆがませて笑顔を見せる。
 その様子を見て数年前のおれを思い出す。
 全て、教える事はない。
 知ったら、受け入れてもらえないだろう。
 そう思っていた事を。
 だが、そう思う相手はそんな事全て抜きにして受け入れてしまう。
 …敵わないよな…。
 そんな事をふと思ってしまう。
「………で、撩これなんだろう」
 ふと思い出したように香が聞いてくる。
 目立たないようにつけられているそれは一目見ただけでは分からず違和感なく『RAINBOW RAINBOW』につけられていた。
「発信機?」
「…つけてないって言ったものをつけるのか?」
「ん〜〜〜」
 この付近は確かビルとビルの狭間だから弱い電波は受けるの難しいよな……。
 距離稼げば逃げられるだろうし。
 緊急配備されてたって穴はある。
 全ての交通を止める事なんて出来ないんだから。
 とふと思い出す。
「GPS…か。確かに、確かに、発信機…とは違うな」
「…!」
 これなら電波妨害も難しい。
 GPSは衛星からの電波を受け取り、その受け取り信号によって所在をはっきりさせる。
 電波を送信して位置を知らせる『発信機』ではなく受信して位置を知らせるのだから『受信機』とでも言った方がいいのか。
 ドチラにしてもへ理屈には違いないが。
「GPSなら何処にいても所在がはっきりする。距離なんて関係ない。工藤親子や中森警部がのんびり構えてるのも納得する」
 おれの言葉にキッドは頷く。
「…イミテーションは持っているか?」
 寺井の方に顔を向ければしっかりと頷く。
「こちらでよろしければ、お使いくださいませ。冴羽様」
 イミテーションを受け取り本物の小さなGPS受信機に目を向ける。
「こちらもどうぞ」
 寺井はそう言いながら工具をテーブルの上に置く。
「でも、どうするの?」
「まぁ、いわゆる、囮作戦ってやつか?」
 香の言葉にそう応え、本物についている『GPS』を外す。
 壊れないか慎重にして。
「でも何で?」
「今問題なのは、警察じゃなく『黄昏の十字軍』の方なのさ。警察だったら簡単にまく事が出来る。自分たちはここだって伝えてくれてるからな。だが、『黄昏の十字軍』は違う。このホテルに入って全く姿を見せていない。その気配を見せたのは『RAINBOW RAINBOW』と一緒に『女神の接吻』が披露された一瞬だけだ」
 あの一瞬だけ、キッドはその気配を表に出して見せ、連中もその気配を見せて殺気立った。
 その一瞬だけだ。
「偽物だとしてもこいつを渡せば、奴らは納得しておってこない。本物だと知る要素を向こうが持っていれば別の話だが……。まぁ、ともかく信号を追う警察への厄介払いが出来るって訳だ。連中は結構あくどい事もやっている。警察も目をつけてたはずだ。じゃなきゃ冴子がおれの所にくるはずがねぇ」
 おれの言葉に香は頷く。
「そこにこの宝石が渡ったとなれば理由をつけて乗り込めるって訳だ。GPSを取り付けたのもおそらくそんな所だろう。単にキッドをとらえるだけなら発信機だけで充分さ。わざわざ『あんな事』言って警戒させる必要も、油断させる必要もない。ま、こんな所か?」
 GPSをつけた偽物に見落としはないか本物と比べる。
「それは分かったけど、どうやってこのホテルから出るの?その様子なら、屋上だって駐車場だって全部警察が張ってるはずよ?それに急がないと冴子さん達に知られるんじゃないの?あたし達の車はまだある訳だし」
 香の言葉に唸る。
 思惑も、今どういう状況なのかも分かったのに、ここから動けないのは…少し問題だろう。
 手段はある。
 ただ、不安なだけ。
 って言ったら不貞腐れるから言わないが。
 そういう意味の『不安』とは違うんだけどな…。
 頭を掻いてちらりとキッドを見れば、小さくため息をつくのが見える。
「二手に分かれる」
「……っ。冴羽さんっっ!!!」
「…撩は快斗君と行くのね」
 おれの言葉に驚くキッドと納得する香。
 伊達にパートナーはやってないよな…やっぱ。
「大丈夫よ。青子ちゃんと寺井さんはあたしがしっかりと守るわ。撩はちゃんと快斗君を守って」
「…ガキの守りは嫌なんだけどな」
「そういう事言ってる場合?」
 思わず口でた言葉に香はにらみ付ける。
「分かってるよ」
 苦笑して言った言葉に香はゆっくりと頷く。
「では、快斗ぼっちゃま、冴羽様。私目はお二人と青子さん方が逃げ出しやすいように少し別の場所で騒ぎを起こしましょう」
「寺井ちゃん。大丈夫なのか?」
「何をおっしゃる。私はこれでも盗一様の助手を務めていたものです。マジックのお手伝いぐらいは簡単でしょう。ご安心下さいませ」
 そう言って寺井さんは部屋を出る。
「で、どうやって撩達は脱出するの?」
 ホテルの見取り図を取り出した香は言う。
 さっきから見ていた奴だ。
「車じゃ…無理でしょ?」
「ま、何とかなるさ」
「そうね。なんか思い出しちゃった」
「何をだよ」
「かすみちゃんとの泥棒特訓。あの時の成果が今生かせるじゃない。やった事無駄じゃなかったわね」
 あの時の事を思い出してのんきに笑う香に苦笑をするしかない。
 おれにとっちゃ思い出したくない思いでベスト3に入る思い出だ。
 そういや…かすみちゃんの婚約者だって言ってた崇司の奴はいまどうしてるやら…。
 同じ男として奴の『現在の境遇』に関して同情はするが………。
 ま、自業自得だしな、ありゃ。
「まぁ車は使えないなぁ〜。駐車場に行った時に冴子にちゃんと誤魔化せよ」
「分かってるわよ」
「香さん、青子も協力します。だから心配しないで」
 そう言って青子ちゃんはキッドに顔を向ける。
「家で、待ってるわ。あたしも青子ちゃんも」
 香の言葉におれは頷く。
 キッドに目を向ければ小さく頷いた。
 寺井からの連絡が入り、軽く打ち合わせをした後、香達が部屋を出ていく。
 チェックアウトとかどうするんだろう…なんてそんな事を考えてたら
「知り合いのホテル。父さんの協力者だったんだ。寺井ちゃんから聞いて驚いた」
 なんて言いながらキッドは肩をすくめた。
 階段を使って一階下の23階に降りる。
 20階には外に張り出しているテラスがある。
 そこから飛び出た方が一番いいが、そこはすでに警察が張っている。
「これの使い方はわかるよね」
 そう言ってキッドは折り畳まれてる小型のハングライダーをおれに手渡す。
 このホテルから隣のビルまでは距離がある。
 さすがに…いくらかすみちゃんの特訓を受けたからって距離があるビルの谷間を移るのは難しい。
「元々、20階のテラスは当てにしてなかった。そこから出る事は警察は多分読んでると思ったから。屋外に設置されてる非常口からって言う手も考えたけど飛び出るのはさすがに無理がある。警察だけなら問題ないけど、『黄昏の十字軍』も出てきてるから。だとしたらどこかの部屋からしかない。全部屋警察が押さえるって言うのはさすがに無理だ。もちろん、ホテルをたった一度のパーティーの為に全部屋あけるって言うのも無理に決まってる」
「で、何故23階だ?20階のテラスの上の屋根部分のある21階もおそらく警察が張ってるだろう。その上の盲点だと思われる部分も裏をかいて警察が張るだろう。工藤親子がいるんだまちがいない」
 19階は論外だ。
 20階のテラスの張り出しのせいで飛び出せないし距離も稼げないだろう。
 それに下で張り込んでいる警察に丸見えだ。
「その部屋には長期滞在している人物がいる。事になっている」
 そういう事か。
 ホテル側が知り合いなら、長期滞在していると言う『人物』を意図的に作り出す事が出来る。
 さすがに警察も人のいる部屋から飛び出すとは考えないだろう。
 考えたもんだな。
 警察の気配を探しながら部屋を出て問題のその部屋までやって来る。
 ここまで来ているかと勘ぐりながら部屋の中に入る。
「後は寺井ちゃんからの合図まちかな?」
 そうキッドがぼそっと呟いた時だった。
 タイミング良く香から携帯に連絡が入る。
 ただしメール。
『冴子さんに見つかりました。でも何とかホテルから出られたけれど、ホテルを出てから追ってくる車があるの。警察かなぁ〜〜。教授の所にいったん寄ってから帰った方がいい?』
 運転しながらメールなんて打てたか?アイツ。
 なんて思ったら青子ちゃんが代わりにメールを打っているらしい。
 教授の家にいったん避難か…その方が良いかも知れないな。
「来た」
 キッドの言葉に目を外に向ければ大きな花火があがる。
「寺井ちゃんからの連絡だ」
 OKとメールの返信をして窓を開け外へと飛び出す。
「その衣装、目立つよな」
「ま、目立ってこそマジシャンだしね」
 あがり続ける花火に目を向ける警察を下に見ながらハンググライダーを操りながら距離を稼ぐ。
「怪盗キッドだ〜〜〜〜」
 花火の音に混ざって中森警部の声が聞こえた気がした。
 まだあたりは火薬の匂いが立ちこめている。
 いつも以上に緊張を強いられる。
 ホテルからさほど離れていないビルに下り立って気配を探る。
 さて、警察と『黄昏の十字軍は何処から出てくるか。
 盗聴している警察無線からは中森警部の怒声しか聞こえない。
『彼はまだこの近辺にいる。それはこのGPSが示している。無線も聞いているかもしれませんよ』
 などと楽しそうな工藤新一の声が聞こえる。
『今回は一人ではない。彼にとって望んでいた宝石なのかも知れないね』
 工藤優作の声も聞こえる。
 冴子は…当然ながら会話に入らない。
 さてとりあえずはこの周囲の重点警戒だろうが…。
 ふとキッドを見れば宝石をのぞき込んでいた。
 頭上は満月。
 月に宝石をかざし仰ぎ見る。
「本物だったのか?」
 そう問えば肩を落とし首を横に振る。
「『黄昏の十字軍』の宝石って言うから…本物かと思ったけどな」
「見つかったらどうするんだ?」
「……ぶっ壊す。親父が死んだ原因だ。『永遠の命』が欲しいって言ってる奴らの前でぶっ壊す。こんなくだらないもの…あったって意味ない」
 意味ない…か。
 いらないよな…永遠なんて。
 今しかないから、今が愛おしく感じられる。
 …おれが言えた義理じゃねぇがな。
「キッド、場所を移動するぞ。警察がすぐに追ってくる」
「あぁ」
 もう一度、ハンググライダーでそのビルから飛ぶ。
 警察は花火を見ていた通行人のせいで身動きとれないのが見えた。
 寺井が花火をあげた方向は抜け出せる方向。
 その後も身動きが取れる方向。
 周囲は高層ビル街ではないので高いビルに邪魔をされて花火が見れないということにはならない。
 まぁ、それなりの高さのビルはあるが。
 そして、ちょうどいい高さのビルを見つけそこに降り立つ。
 ここから地上まで降りるのにそう苦にもならないだろう。
「…っ」
「動くな」
 キッドを小さく制する。
 気配のする方向をにらみ付けながら考える。
 連中はここにおれ達が来る事に気付いていたのか?
 考えられるとしたら寺井がつけられていた事。
「彼には手を出していない。我々に必要なのは、貴様の命と『女神の祝福、RAINBOW RAINBOW』ただそれだけだ」
 闇の中から明かりのある所に出てくるスーツの男達。
 数はそれほど多くない。
 周囲に素早く目をやり状況を確認する。
 隠れる場所はすぐ隣に配水タンクがある。
 距離は訳10メートル。
 飛び込めば大丈夫だろう。
「『RAINBOW RAINBOW』はやれるがオレの命はやる訳には行かない」
 そう言いながらキッドは『RAINBOW RAINBOW』を連中に放り投げる。
 そしてそれを取った瞬間
「飛び込め」
「撃て」
 と銃を構えていた連中が打ち込んできたのとおれ達が配水タンクの影に隠れるのが同時だった。
「もう少し考えて渡せなかったのか?」
 影に隠れながら連中に向けて銃で応戦していく。
「…いいじゃん。もう渡したもんだし、後は警察が来てくれればそれでいい訳だし」
「まぁ、そうだがな」
「オレも手伝うよ」
 そう言って銃をとり出す。
「ガキがそんなもん持ってんじゃねぇよ」
「残念ながらただの銃をって訳じゃないんだな。一応これでもマジシャンだし」
 そう言って打ち出された物はプラスチックのトランプだった。
 正確に標的に当たるそれに思わず唸る。
「ね。すごいでしょ」
「お前の親父さんがそれを使ってたのを思い出したよ…」
「親父が?」
 驚くキッドを促して銃弾やトランプを食らってうごめいている連中を放って結局もう一度ハンググライダーで飛ぶ羽目になった。
 このビルが『黄昏の十字軍』が所持するビルだと、脱出するのに骨だからだ。
 正直、弾をそれほど持ってきてないって言うのもあった。
「げっ、新一っ」
 ビルの下を見ればGPSをたどってきた警察が見えた。
 まだ、おれ達はビルにとどまっている。
 新宿が目の前だって言うのにだ。
 サーチライトまで出てきた事にため息がついた。
「で、どうするんだ?」
 あたりを照らすサーチライトから影に隠れて、キッドに問いかける。
「どうしましょう?」
 その口調は怪盗キッドのそれだ。
 今までは年相応だったのに。
 今度は相手が警察だからなのか、いつもの調子と言う奴が出てきたのだろう。
「どうしましょうじゃ、ねえだろう」
「ハハハハハ」
「笑って誤魔化してる場合か?」
 そう言って銃を突きつければ
「冗談です、冗談」
 そう言って両手をあげる。
 トランプ銃は握られたままだ。
「参ったって言うのはこっちのセリフだぜ?キチンと読んでやがったよ連中は」
「確かに。中森警部も工藤親子もしつこいようで」
「誰のせいだ誰の」
 グチグチと言ったって始まらない。
「さっさと帰らないと、ハンマーが襲ってくるんだ。責任ぐらいとれよ」
「まぁ、マジックを一披露すれば、機嫌良くなるかな?」
 さっきよりも余裕ないような気がするのに考えるのは……なんてな。
 後々の事を考えればさっさと帰るに越した事はない。
「さて、ではこの場から立ち去るとしましょうか…。私たちを追いかけている、中森警部殿や工藤親子には大
申し訳ないんですけどね。さて、一つお願いしてもいいですか?」
 キッドは礼儀正しくおれに言ってくる。
 闇でも目立つ白い衣装は、どうにかならないのか?と昔も言った事を思い出す。
 キッドが懐から出した形状から言っておそらく『あれ』だろう。
「いいさ」
 おれの言葉にキッドは世界中の女性を虜にするであろうと言われる笑顔を見せる。
 警察相手の怪盗キッドのマジックショー。
 まったく、助手が裏社会No.1の男と言うのは笑えるだろうよ。
 キッドがそれを投げおれはそれを狙い打つ。
 歓声が聞こえ、誰もがその方に目を奪われる。
 花火が再び眠らない街の夜空を飾る。
「では、今のうちに」
 キッドの言葉におれは頷く。
 香たちは無事だろうか。
 携帯をこっそりとのぞき見れば教授からのメール。
 無事帰っていったとの事。
 まったく、絵文字つかうようになってんだ…さすが教授だぜ。
 時間から見てもうマンションについてるのは確実だな。 
 って、『彼女』までハンマーを覚えたら、おれは恨まれるかもな…。
 なんて思いながら、マンションへと向かった。
Novel Index