「見たいんだったら、間近で手に取って見せてやるよ」
「ホントは、味方しなくてもいいんだからね」
「……お願いします。協力してください」
「…しょうがないなぁ。そこまで言うんだったら、協力してあげる」
「…サンキュ」
「無茶、しないでね」
「誰だと思ってる?」
「…知らない」
「そう言うなよ〜〜〜」
時間:光、不吉なまでに
東都センチュリーホテル 最上階。
『女神の接吻』が披露されるパーティールームは27階と言う高層にある。
招待状がなければ入れないこの会場にオレ達はどうにか手段を見つけてやってきた。
それなりに正装をしたおれと香。
最も『とある人物』の付添と言う立場なので派手な服装はできない。
「冴羽さん!ちゃんとエスコートしてよ。一応冴羽さん達は未成年であるあたしの保護者なんだから!」
「大体なんで俺たちが唯香のお守りをせにゃならん。オチオチナンパもできやしない」
「するな、バカ!第一あたし達がVIPのみのパーティーにこられたのは唯香ちゃんのおかげなのよ!」
「そうそう、この北野ユカ様がいなければ冴羽さんたちはこの会場には入れなかったんだからね」
くそ〜〜〜〜。
冴子のせいで、唯香にこき使われる羽目になってんだっっ。
依頼をするだけして帰った冴子に電話したら
「それぐらいどうにか出来るでしょ?」
なんて言いやがった。
「依頼したのは何処の誰だ!!!!放棄したっていいんだぞ!!!」
「言いたい事はそれだけかしら?じゃ、よろしくね」
なんてあっさり切りやがった。
冴子の奴〜〜〜〜!!!!!!
もちろろんキッドから送り付けられた予告状を何度も確認してもない。
二人揃って、おれ達ならば入る手段を見つけるだろうなんて思ってやがる。
勝手に思うな!!!!!
招待状偽造したって良かったが、会場の警備を取り仕切るキッド専任である中森警部が厳しく招待客のリストを使ってチェックするって言うんだから、偽造したって意味がない。
そこに、救いの主として現れたのが唯香、だった。
冴子から話は聞いていたのだろう。
おれ達の部屋に来るなり、
「今度のパーティー、冴羽さん達連れてってあげる。ただし、あたしのボディーガードだけどね」
なんて言いやがったのだ。
唯香には何故か招待状が届いていた。
何故とか疑問をもつよりもなによりも会場に行かなくては冴子の依頼と怪盗キッドからの呼び出しに答える事は出来ない。
黙って逃げてもいいが、それじゃ気持ち悪い。
ともかく、唯香のおかげでおれ達は会場に入れる事になった。
エレベーターを降りてすぐの所に受付があり、そこには受付の人間と冴子ともう一人がいた。
厳しい目つきであたりを見渡しているもう一人の男。。
彼が噂の『中森銀三警部』らしい。
ほぼvsキッド全戦全敗の中森警部。
よほど、女神の接吻は奪われたくはないのだろう。
中森警部の意気込みは並大抵のものではないのは傍からみても十分わかった。
「招待状をお見せください」
唯香は受付でそう言われる。
「野上…北野ユカです。あの二人はあたしの保護者です」
っておい唯香、おれ達はいつお前の保護者になったんだ?
「大変失礼だがチェックをさせていただく」
受付をしようとした時だ。
「お、お姉ちゃん!」
冴子と男が受付のテーブルにやってきた。
「野上、知り合いか?」
「えぇ、妹と槇村の妹と、その恋人。こちらが中森警部よ。怪盗キッドの専任の刑事」
お菓子のおまけみたいに意味あり気におれの事を隣の中森警部に紹介する。
…槇村の妹?
って香の事言ったよな。
「槇村の妹か!そうか…そうか…。」
「あ、あの。兄と知り合いだったんですか?」
と香が聞けば中森警部は懐かしむように答える。
「ん?あぁ、ワシがまだ所轄にいたころ彼はワシの下にいたんだよ。見かけによらずに優秀な奴でな。8年前の怪盗キッドの最後の山の時に一緒に追ったんだ。彼が警視庁に転属する前だったかな?」
「槇村は転属してすぐに私と組む事になったのよ」
「そうだったんですか…」
…なるほどね。
あいつ、最初っから警視庁だった訳じゃねぇんだ。
そういう事、聞いた事なかったな…そういや。
思わず、昔の事を思い出した。
「そんな事より、お姉ちゃん、あたし達会場のなかに入りたいんだけど」
「本当に入るつもり?」
「招待状もらっているんだから当たり前でしょう?あ、冴羽さんと香さんは私の付き添いね」
「わかったわ」
唯香の言葉に冴子はため息をつき中森警部を見やった。
中森警部に目を向ければどこか生き生きとしている。何事かと三人で成り行きを見やれば、
「怪盗キッド!覚悟しろぉ!」
そう叫んで
「いって〜〜〜〜〜」
おれの鼻を摘み上げやがった!!!!。
「な、何すんだよっ」
「よし、貴様はキッドじゃないな。」
は?
満足そうな…と言うより不満一杯の中森警部をにらみながらおれは痛む鼻を押さえ考える。
って言うか、何で不満そうなんだよっっ。
香はすでに冴子の鼻摘みの餌食になっている唯香と苦笑いを浮かべている冴子を見ながらといかけた。
「冴子さん、どう言うこと?」
「怪盗キッドは変装の名人なの。顔面をマスクで覆って別人に成り済ますのよ。確認方法わね、こうやって鼻を摘み上げることなのよ」
そう言いながら冴子は香の鼻をつまみあげる。
だから、受付に冴子がいるって訳か。
中森警部じゃ女の鼻はつまみあげるのは抵抗あるだろうし。
「冴子さん、そんな事言いながら摘ままないでよ」
「だってえ」
涙目に抗議する香に冴子はすごく楽しそうだ。
こりゃ、間違いなく日ごろの鬱憤をこれで晴らしているようなもんじゃねぇか。
「お姉ちゃん手加減ないよ〜」
「ホントよ〜〜」
「まぁ、ここは私に免じて許してもらえないだろうか?件の彼は招待客に成り済ましている場合があるからね」
と、背後から気配を探っていた人物のどこか悟りすましているような声が聞こえる。
気配を隠したまま側にたたずんだのは、どこか槇村に声が似ている男だ。
香がその声に反応して突然その方をを向けば、黒縁の眼鏡をかけた男が立っていた。
そういや、あいつは銀縁だったな…。
よれよれのコート着て、猫背だった。
そんな事を思い出すが、この男は違う。
人に警戒を与えない柔和な表情に物腰。
だが、目は観察するようにこちらを見てそして隙のない身のこなし。
着るものは上等のスーツ。
パイプのタバコを吸う様は決まっている。
「工藤優作先生!」
唯香が声を上げる。
「この人が工藤優作先生っっ」
唯香の言葉に香が感動して言う。
工藤優作、世界屈指の推理小説家でもあり、今回のパーティーの主催者でもある。
ちなみに彼の鼻も赤い。
すでに中森警部に主催者ながらもされていたようだ。
「優作先生、招待状ありがとうございます」
「いや、君に会えるのを楽しみにしていたんだ。同じ推理小説家として君にいろいろな話しも聞いてみたいしね」
「そんな、私なんて優作先生ほどじゃないですから。新作の小説は、息子さんがモデルって聞きましたけど?」
小さく内緒話のように言う唯香に優作氏は苦笑する。
「君こそ、小説のモデルは君のおねえさん達だって聞いてるけどね」
「優作先生、それ秘密なんでダメですよ〜」
優作氏の言葉に唯香は困ったように言う。
本音は困ってないくせに。
『ネタ』にして楽してるくせによく言うぜ。
「君が、冴羽撩か…」
意味あり気に優作氏がおれを見る。
「知ってるんですか?」
「いや、知らないが…」
と唯香の問いに中途半端な所で止め、おれの方を意味あり気に見る。
「まぁ、詳しい事は秘密と言う事にしておこう」
「ん〜、ますます気になりますね」
「いやいや、君こそ、どうやって彼らと知り合ったのかな?」
「姉が知り合いだったんです」
なんてニコニコと会話する唯香と優作氏。
工藤優作に浮かぶ表情は笑顔だが、視線と気配はこちらを探っている。
この男、おれの正体を確実に知ってやがる。
『便利屋、ボディーガード』としてのシティーハンターじゃなく、本当のシティーハンターを。
「あまり警戒はしないでくれ。私はあまり君の事は興味ない。……と言うには語弊があるかな?」
「興味なくて結構だぜ?何かあった時は相談ぐらいはのるさ」
「すでに息子が相談…と言うものでもないだろうがのってると思うんだが?」
と優作氏は視線を移す。
そこには正装して中森警部と話している高校生ぐらいの男と知り合いのお嬢さんがいた。
「あら?蘭ちゃんじゃない?隣、高校生探偵!!工藤新一!!!」
飲み仲間である毛利小五郎氏のお嬢さん、蘭ちゃん。
彼女の隣にいるのが優作氏の息子、工藤新一。
2年ほど前までマスコミをにぎわせていた平成のホームズ、高校生探偵。
1年前にぷっつりと消息をたったが、また復活をしてマスコミをにぎわせている。
「新一君に相談って?冴羽さん、新一君にあった事あるの?」
「いや、ないぜ」
唯香の言葉を軽く交わす。
「…工藤さん、おそらくあんたの気のせいさ」
「そういう事でも構わないよ、私はね。ただ、個人としては君に興味がある。古い友人が君の事を話していたからね。それからお嬢さん、あなたの事も」
そこまで言って、優作氏は誰かに呼ばれおれ達の側を離れる。
「工藤先生の古い友人って冴羽さん達は知ってる?」
「知らないわ。撩、知ってる?」
「さぁな」
唯香と香の言葉を交わし、おれは小さく息を吐いた。
「……古い友人って誰だろう」
香は聞いた事がなかったらしい。
そういや、家では仕事の話はしなかったらしいしな。
「槙ちゃんだろ?」
新人の推理小説家だが自由に警視庁に出入りしてる男。
だが、自分と妙に話があう。
と言う話を槇村から聞いた事があった。
「アニキ?…そうなんだ、なんか今日はアニキの知り合いだった人と会う事多いね」
「そうだな」
嬉しそうに微笑む香におれは頷いた。
「きゃあ〜、香さんっ。天才高校生マジシャン黒羽快斗がいる〜〜」
「えっうそっ」
唯香の声に今のアニキへの郷愁はなんだったのかと言うぐらいの早り身で香が反応する。
その後にもゾクゾクと招待客が入ってくる。
「香さんっっ、木野隆哉〜〜〜」
「唯香ちゃん、猪狩悠吾〜〜〜。ホントありがとう、唯香ちゃんのおかげっ」
「何言ってるんですか、香さん。香さんがいてくれたから、あたしパーティーに来れたんですよ〜〜」
唯香、おれは、いいのか、おれは。
芸能人も多いせいか、唯香と香がミーハーしている。
二人が言ってた木野隆哉と猪狩悠吾は同じグループのアイドル。
ったく…ホントに何だったんだよ…さっきの態度は
今の変わり身見たら、槇ちゃんがなくぞ…………って!!!!
「わぁお、朝のもっこりお天気おねいさん!」
今お気に入りのお天気おねいさんも招待されてたんだぁ〜〜〜。
「何、言ってるのよ!一番ミーハーしてんのあんたじゃないのよ!」
って言いながらハンマーするなよ!
「もうっ自業自得でしょ!」
「香さんの言うとおりですよ冴羽さん」
香と唯香の二人してそんなこと言いやがった。
ナンパしに行く訳じゃねえんだからいいじゃねえか。
なんて言えば本日2回目のハンマーがくる。
その次の瞬間、自分の視界に何かが走る。
その方をみればもっこり美女ではないか!
招待客には芸能人もいるがあそこまでのもっこりちゃんは早々いない。
朝のお天気おねいさん以上だ!
ん−、ナンパに行くべきか、それとも行かざるべきか、それが問題だ。
なんてな。
香をみれば唯香と一緒に他の物を見ている。
チャンス!
おれはこっそり向かう事にする。
「撩?どこに行くの!」
「さぁ、お嬢さん。この僕ともっこりでも楽しみましょう!」
香の声を後ろに聞きながらおれはもっこり美女を追う。
「香さん!あそこ!女の人!」
「こぉら!撩!」
げっ!香に見つかった!
「仕事中にナンパするなといってるだろうに!」
逃げなきゃまずい。
香が抱えてるハンマーはさっきのより大きい特大ハンマーだ!!
こんなところでつぶれるのははごめんだ!
幸いにもお姉さんは会場から離れていく。
なら、追いかける以外にない!
冴子に見つかったら事だしな。
…後から香のきつーいハンマーが降ってくるだろうが、意味あり気にこっちに視線を送る美女に対し無視をすると言うのは失礼ではないか!!!!
この27階のフロアは他にもパーティー会場があったりレストラン部分があったりする。
その他パーティーの主役の控室やらなにやらあるから迷い込む事も多い。
「……言い訳か?」
おれとした事が美女を見失った。
さんざん追いかけた揚げ句にだ。
さんざん、おれが追いつくように向こうが調整していたくせにだ。
……はめられた?
何のために?
「………あんた、なにしにあたし達が来たか忘れたの?」
底冷えするほど、低ーい声が背後から聞こえる。
「…………か、かおりん」
「良い訳は?」
ゆっくり振り向けば、口元だけに笑みを見せて特大のハンマーを…そう、さっき追いかける直前に見たあの特大ハンマー『サイズ1京(兆の次)』を抱えている香。
「それは、さすがにやめない?」
「そう?これより上の方がいいの。那由他はやった記憶があるのよね………(34巻の美佐先生の話で登場)」
「………………………………」
那由他(10の60乗)……は躱した記憶がある。
「おまっっおれを殺す気か?」
「あらぁ〜殺しておいた方が世の中のためだと思わない」
「ぎゃ〜〜〜〜」
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!!!!
「問答無用!!!!!!」
ぎゃ〜〜〜〜っっっ。
「冴羽さん、良かったですね。一応、100トンハンマーですよ」
う、う、う、う。
「すっきりしたぁ〜。この所ハンマーあんまり使ってなかったのよね」
「そうだったんですか?」
「そう」
それ以外はあった気がするけどな。
「なんか言った?」
「いえ、言ってません」
「さ、戻るわよ。時間までそうないわ」
時計を見ればパーティーの開始時間15分前だった。
会場に戻れば先ほど以上に数多くの有名人が顔をそろえていた。
工藤優作、工藤新一親子の他に鈴木財閥会長鈴木史郎氏、小五郎さんにそれから、香と唯香がきゃーきゃー言てる有名人。
「黒羽快斗君は帰っちゃったみたい。ざんねん、マジシャンについて取材してみたかったのに」
そう呟く唯香は心底残念そうに言う。
「香」
パーティーの始まる直前、唯香とあちこち目を向けている香に声をかける。
「何?撩」
「気をつけろよ」
「え?」
「妙な気配がしやがる」
おれの言葉に香は緊張する。
「そう、緊張するなって」
「あんたが言ったからでしょう。ともかく分かったわ」
香は頷いて、さっきと同じように目を当たりに向ける。
少し探る様子も見せている用だ。
気配がする。
妙な気配とに、思わず舌打ちがしたくなった。
パーティーが始まり、例の女神像のお披露目に入る。
主催者であり、この宝石の発見者。
そう、工藤優作氏は『女神の接吻』の発見者でもあるのだ。
彼がまず『女神の接吻』の説明をする。
「今から皆様方に披露する女神像は東都博物館に寄進されるべきものだと言う事を覚えていていただきたい。かの有名な美しいハープシェイプカットされた呪いのブルーダイアモンド『ホープダイア』がスミソニアン博物館にある事はご存知でしょう。たくさんの人々を不幸に追い落とした彼の宝石。この女神像についている世界最大のキャッツアイ『RAINBOW RAINBOW』。この宝石も数々の呪いを与えてきたそうです。そしてその始まりはジオニア公国での悲劇」
工藤優作の説明は続く。
ジオニア公国はヨーロッパにあったと言われる小国だ。
彼の王国の王が求めた宝石だったが最初の妃は暗殺、二度目の妃は変死、最後には自分も暗殺されたらしい。
そこから始まった呪いは、後々まで響いている。
それは、表の歴史だ。
だが裏の歴史はおそらく、『黄昏の十字軍』の仕業なのだろう。
『黄昏の十字軍』の発生地はジオニア公国と言われているから。
そう考えれば、つじつまはあう。
「では、ごらん下さい。世界最大の宝石群『ビッグジュエル』に属する『RAINBOW RAINBOW』を」
そう言って工藤優作は女神像にかかっていた布を取りはずした。
女神像は小さいながらも大理石で作られており、口付けしている『RAINBOW RAINBOW』はライトに照らされ不気味に一筋の猫の目を引いて七色に光り輝いていた。
ビッグジュエル……ねぇ。
また、そんな曰くつきかよ。
「怪盗キッドが狙ってる宝石は全部ビッグジュエルだそうですよ」
「そうだったの?知らなかった」
「ビッグジュエル。曰く付きのもんだぜ」
「知ってるの?」
おれの言葉に香と唯香がおれの方を見る。
「昔、こいつを盗む手伝いさせられた事があってさ。一度目はアメリカでどっかの組織の依頼。、二度目は日本で…個人だったか?な?」
「曰くって?」
「夜、月に宝石をかざす。そうすれば、本物が浮かぶんだそうだ」
「本物?」
首をかしげる二人におれはあいまいに頷く。
これこそオカルトめいてる。
月にかざして、そこからあふれ出る涙とやらを飲めば永遠の命が得られる。
なんてありえなさすぎる。
それ以上にビッグジュエルは曰く付なの物が多いって言うのにな。
「いくつあるの?」
「さぁ、そこまでは知らないさ。それこそ神のみぞ知るって奴だろ?」
期待を込めて聞いてきた唯香におれはそう答える。
となると、連中が狙ってる理由は分かる。
…じゃあ、怪盗キッドが狙う理由は?
奴も永遠の命?
それはありえないような気がした。
「香、お前、永遠の命欲しい?」
唯香が、周囲が女神像に見とれている中こっそりと香に問いかける。
「何言ってるの?」
「ただ、聞いてみたかっただけ」
そう言っておれは視線をビッグジュエルに移す。
「…入らないわ」
小さな声が、香から聞こえる。
「欲しくもない。ただ、あんたといられる時間があればそれでいい。なんてね」
振り向いて見せた笑顔は、いつもと変わらない笑顔だった。
「急にどうしたの?」
「いや、なんでもないさ。それより…」
周囲に気を配れ。
そう、香に言おうとした瞬間だった。
突然、会場内の明かりが消える。
「な、なに?」
「…………」
一瞬の間と周囲のざわめきが大きくなりそうだったとき、中森警部が
「明かりを着けろ!」
と声を上げる。
「ダメです。このホテル内の電源すべてショートしています」
「何馬鹿な事いってるんだ!懐中電灯ぐらいもっているだろう!早く辺りを照らせ!」
その間に周囲の気配が動く。
怪しい奴は数人。
それらの微妙に変わる位置取り。
そしてかすかに動く気配。
警官隊がライトを付けるまでそう時間はないはずだった。
だが、照らされた先には『RAINBOW RAINBOW』は跡形もなく消えていた。