ISSA(International secret special Agents:国際秘密工作員)。
ISSAは犯罪に巻き込まれた要人の救護及び、犯罪にからんだ資料の奪取を主とする国際組織である。
ISSAの所属には各国にあるISSAの養成施設に入らなくてはならない。
世間には知られていないが、ISSAには組織が二つある。
能力保持者と否保持者である。
ここで言う能力とは常人には見られることの出来ない、ESP(超能力)等をさす。
団体で行動し、要人の救護にあたるのは否能力保持者。
そして、もう一つ、各単体(この場合、二人一人のグループ)で行動する犯罪組織への進入及び、資料の奪取。
このほうのグループは主に能力保持者が当たっている。
-- プロローグ:1年前 --
「蘭ちゃんやないの?」
「和葉ちゃん。久しぶりっ」
入学式の会場で毛利蘭に声を掛けてきたのは昔なじみの遠山和葉。
その後ろには和葉の幼なじみの服部平次の姿も見える。
現在まで、大阪在住。
「和葉ちゃんも服部君もアンカーになるの?」
「オレがなる言うたから、オレにくっついて来てん」
「そんなんとちゃうわっ。そう言えば、青子ちゃんと快斗君もアンカーになる言うてたけど、逢うた?」
「ウン、逢ったよ。ちょっとどこか行くって言って…すぐ戻ってくるって」
和葉の言葉に蘭はにこやかに応える。
「ん?平、和葉ちゃん、久しぶりっ」
「げっ服部がいるっ」
「いいじゃないのぉ。新一君、服部君に逢うの嫌なの?」
「あったりめぇだ…」
ちょうどいいタイミングで黒羽快斗と中森青子、そして工藤新一がやってくる。
「みんなが久しぶりに逢うのって2年ぶりやね」
「そうだな」
そう言って新一は蘭に視線を向ける。
「工藤君が…アメリカに行ってもうてからやもんね…」
「……まぁ…な…。蘭、久しぶり」
「??」
新一の言葉に応えず、蘭は不思議そうに首をかしげる。
「蘭ちゃん?」
「工藤君って誰?あなた…誰?わたしの知ってる人?」
その場が凍りつく。
「ら…ん?」
「どうしたのみんな?わたしなんか変なこと言った?」
蘭はその場の様子に慌てだす。
「蘭っ。オレだよっ忘れたのかよっ。工藤新一だっ。オマエの幼なじみのっ」
「えっわたしに…幼なじみ…いたの?」
新一の言葉に蘭は驚く。
「蘭っ」
そんな様子を遠くから見ていた一人の女性…。
「そこまでよ。工藤新一君」
赤茶けた髪の女性…灰原哀がその場にやって来る。
「灰原さん…」
「大丈夫?毛利さん」
少し興奮気味なのか蘭を哀は押さえるように言葉を紡ぐ。
「大丈夫よ、大丈夫だから…安心して…蘭さん」
「ごめんなさい…灰原さん」
哀の言葉に蘭は謝る。
「謝る必要なんて無いわ。工藤新一君、毛利さんの事興奮させては困るわ。向こうに行きましょう、毛利さん」
志保に促されるように蘭はその場を離れた。
「彼女…何者だ?」
新一はふと呟く。
「何で?」
「…オレのこと知ってた」
「何言うてんねん、工藤財閥の御曹司が。工藤、オマエ自分が有名やないって思うてんのか?」
「まじ?」
「当たり前やっ。それよか、式が始まる見たいやで」
平次の言葉に5人は会場内に向かって行った。
-- 数ヶ月後 --
「蘭ちゃんっ」
廊下を歩いているとなじみの声が聞こえる。
「和葉ちゃんっ」
立ち止まって振り向くと和葉ちゃんが隣にならぶ。
「アタシ寂しいわ」
歩き出すと突然、和葉ちゃんが言い出す。
「何が?」
「やって…蘭ちゃんと授業ちゃうねんもん」
「仕方ないよ。わたし否能力保持者だもん」
わたしは否能力保持者。
でも、和葉ちゃんは能力保持者だった。
うんん、和葉ちゃんだけじゃない、服部君や、快斗君、青子ちゃんや…そして工藤新一も…能力保持者だった。
いつも一緒にいるけれど…わたしは工藤君には一線を引いていた。
彼のこと何も知らないし、彼はすぐにわたしの奥底に入ってきそうで怖かった。
何か心の奥にあるモノ。
それに彼は必ずと言っていいほど触れてくる。
だから…触れられないように、距離を置く。
目線を合わせない、言葉もかわさない…。
でも…何でだろう。
そうするたびにムネが痛くて仕方ない。
「蘭ちゃん…ホンマに…工藤君の事覚えてへんの?」
和葉ちゃんは遠慮がちにわたしに聞いてくる。
「……ウン……ホントに知らないのよ。わたし、工藤君の事。ねぇ、和葉ちゃん、わたしホントに工藤君と知り合いなのかな…」
わたしの言葉に和葉ちゃんは何も答えないでただ…うつむいていた。
「なーに、見てんだよ」
視線の先をおって快斗は言う。
「何って………言わなくても解るだろ」
そう答えたオレをはぐらかすかのように快斗は言う。
「和葉ちゃん?」
「あのなぁ、人の女に目を向ける気はねぇよ」
「誰がオレの女やっ」
服部が言わなくてもいいことを言って墓穴を掘る。
相変わらず進歩が無い。
「誰も、オメェのだって言ってねぇだろっ」
「姫か…」
姫?
「そう、蘭ちゃん、今、否保持者の間では姫って呼ばれてんだよ。呼ばれてるって言うより、姫としてもてはやされてるって訳。誰にでも向ける慈愛の微笑みがまるでお姫さまの様だってね。蘭ちゃんは現在人気ナンバー1の女の子何だよっ。しかも、フリーだし」
「工藤がおるやろ」
「…新一はいないだろ。居たとしてもさ」
…服部と快斗の言葉が遠くに聞こえる…。
泣きそうだ。
『もー何やってんねんっ』
突然、回線が開く。
特定の人にしか開かないテレパシーの回線。
相手は
『もう、情けなくって涙でてくんねんけどっ』
『……悪かったね』
『…そこに平次もおんの?』
そう、相手は和葉ちゃん。
オレの能力の本業は催眠。
でも、サブの能力としてテレパシーがある。
それの範囲は小さくて、特定の人しか回線が開かない。
いつもは回線は閉じているけど、特定の人だったら入ってくる。
オレの特定の人は和葉ちゃんだった。
何故か、彼女と同調した。
『蘭ちゃんやったら、アタシと青子ちゃんとで守ったるから安心してや。ホンマ工藤君は蘭ちゃんの事になると人が変わるんやね』
ほっとけっ。
『青子は?』
突然、快斗の回線が開く。
『青子ちゃんやったら、って…快斗君、いきなり入っってこんといてよ』
『ごめんっ回線あいてるのに気付いてさっ』
快斗の能力は変声。
ただの変声ではない。
ありとあらゆる人の声が出せる。
一度、聞けば、誰が聞いても、必ず、本人だと思わせるぐらいの声色。
サブの能力はテレパシー…。
快斗の範囲も小さい。
オレと同じで、特定の人にしか回線が開かない。
快斗の特定の人は青子ちゃん。
ちなみに、オレと和葉ちゃんとも同調する。
『青子はどうした?』
『青子ちゃんやったら忘れ物した言うて寄宿舎の方に戻ったんよ』
『そう、解った』
そう言って快斗は回線から抜ける。
『工藤君……どうしてもって言うときは……言うて…。アタシやったらたぶん何とか出来ると思うねん』
『ありがとう』
和葉ちゃんの特殊能力はダイブ、意識下への記憶進入…。
けど、それが、彼女に大きな負担になることも解ってる。
さんざん、服部が言ってるし、それぐらいの知識はある。
ただ…今は、彼女の心遣いが嬉しかった。
突然、蘭ちゃんが倒れた。
授業中だったらしい。
アタシが工藤君と回線使って話してたから…その影響受けたんやと思う。
蘭ちゃんも…昔は工藤君の回線に何度か反応してたから。
平次は全然やったけど…。
「蘭ちゃん……大丈夫かな?」
「大丈夫やと思うけど…。どうなんやろ…。…蘭ちゃんが倒れたのやっぱりアタシのせいになるんかなぁ」
「何で?」
「アタシ…工藤君と話してたん…。せやから…その電波受けたんやと思うねんけど…」
アタシの言葉にふと青子ちゃんはうつむく。
「どないしたん?」
「……青子…ずっと思ってたんだけどね、蘭ちゃんってホントに否保持者なのかなぁ?」
「……なして?」
「だってね、否保持者と保持者は寄宿舎の部屋別々だって…聞いたよ。蘭ちゃんが青子達と同じ部屋だって言うこと蘭ちゃんのクラスの人に言ったら驚いてたんだもん。そんなことあり得ないって。だからね、青子、お父さんに聞いてみたの。青子のお父さんもISSAだったから…」
「そしたら…」
「そしたら、やっぱり否保持者と能力保持者の寄宿舎の部屋が同室って言うことは無いって言ってたんだよ。そうすると問題が起きやすいからって…」
そう言って青子ちゃんはうつむく。
確かに言われてみればそうだ。
アタシも最初は気にはならなかったんやけど…。
蘭ちゃんと同室だって言ったら驚く人がたくさんいた。
「やっぱり…蘭ちゃんの工藤君を覚えてないって言うのとなんか関係あるんと違う?」
「青子も思う」
工藤君は2年前のある日、アメリカに急に行くことになるって言って行ってしまった。
「ほんのちょっとだからさ」
別れ際、空港に見送りに行ったアタシ達には目もくれず、蘭ちゃんの事ばっかりなだめていた。
「すぐに戻るから」
その言葉に頷きながらも、蘭ちゃんは泣いてしまう。
アタシや青子ちゃんや蘭ちゃんの親友の園子ちゃんが慰めても、泣きやまなくって、工藤君が慰めたときだけ止まるという困った状態になってしまったのを今でもはっきりと覚えている。
「新一、すぐってどのくらい?」
「すぐだよ。長い間、蘭と離れてなんかいらんねぇよ」
長い間の後小声で言ったつもりだった見たいだったけど、全員に筒抜けで、爆笑してしまったのだ。
悪いとは思いながらも。
園子ちゃんなんか
「蘭が居ないと新一君耐えらんないんだって」
てからかったから、平次や快斗君までからかう始末。
「……青子…、蘭ちゃんをサイコメトリーしてみる…。…そしたら…なんか解るかもしれない…」
そう言って青子ちゃんはコンセントレーションを行い、蘭ちゃんにサイコメトリーを始める。
「……音…が…聞こえる……。………これ……普通の音じゃないよ…。何だろう…でも…蘭ちゃんも能力保持者みたいだよ」
青子ちゃんは蘭ちゃんから離れる。
「……蘭ちゃんが能力保持者やって言うことは……蘭ちゃんが隠しとんの?」
「違う見たい。蘭ちゃんじゃなくって……違う人かも…」
「待って…って事は蘭ちゃんの特殊能力を隠しとんのは講師って事になるで」
「そうだよね…」
アタシの言葉に青子ちゃんはうつむいた。
蘭ちゃんが昔の蘭ちゃんとちゃう…その理由がわからへんかった…。
-- MISSION.0 --
アンカー任命式。
今日、任命式ではアンカーのファーストとセカンドが発表される。
訓練生の時はわたし達はサードと呼ばれていた。
そして、能力の差からファースト候補生とセカンド候補生に区分けされ、今日はっきりと発表される。
わたしはそのファーストとセカンドが表示される電光掲示板の前へに向かっていた。
ただ…気になるのは周りの視線。
何だろう。
凄く気になる。
不思議そうな顔と、嫉妬とか、やっかみとかの視線…。
何だろう。
「蘭ちゃん」
和葉ちゃんが息を切らしてやって来た。
「和葉ちゃん、どうだった?」
「アタシはセカンドやで。ファーストは平次。って言うか平次にセカンドにしてって頼んだんやけどね」
そういった後、和葉ちゃんは顔を曇らせる。
「どうしたの、和葉ちゃん」
「あんな…落ち着いて聞いて欲しいねん」
「何?」
わたしの様子に和葉ちゃんは言葉を選ぶように話をする。
「蘭ちゃん…セカンドやねんけどな…。……蘭ちゃんのファースト…工藤君…やねん」
「うそ…」
どうして?
「わたし、能力否保持者だよ。どうして、能力保持者の工藤君のセカンドになるの?」
「せやけど…そうなっててん…」
和葉ちゃんの言葉に戸惑う。
能力保持者のセカンドが否能力保持者なんて…わたし聞いたことないよ。
…さっきの好奇の視線って…わたしのファーストが工藤君だからって事かな。
「否能力保持者なのに、どうして、能力保持者の工藤君のセカンドなのかしらね」
突然そんな声が聞こえてくる。
…わたしが…決めたわけじゃないわ。
「わたし…講師に聞いてくる」
「そんなんしたって無理やで」
服部君がやってくる…その隣には工藤君もいた。
「蘭ちゃん、講師が認めたから、工藤のセカンドなんやで。いくら工藤がなんぼ言うたかて、講師がアカンって言うたら…蘭ちゃんは工藤のセカンドにはならへんねん」
「講師が…決めたの?」
「…選んだのは…オレだよ。オレのセカンドは蘭だって」
わたしの言葉に工藤君が応える。
「どうして…」
「どうして…って」
「どうして、否能力保持者のわたしを能力保持者のあなたのセカンドに選んだの?わたしじゃなくって他の人でもいいじゃない」
いや…。
工藤君は…踏み込んでくる…。
「毛利さんっ」
突然、声が聞こえる。
何かがわたしの中から出てきそうなときに必ず聞こえる声。
「灰原さん…」
「大丈夫?」
「大丈夫です…」
灰原さんが心配そうにわたしの方にやって来る。
「工藤君…前も言ったわよね。彼女を興奮させないでって。どういうつもり?彼女を自分のセカンドに指名したって…」
「どういうつもりってそのままだと思うけど?オメエには関係ねぇだろ?」
「関係あるわっ」
「やめてっ灰原さん。わたしは平気よ。だから……だから……」
思わず、工藤君と灰原さんの言い合いを止める。
どうして止めたの?
工藤君は…何者何だろう…。
気になった…。
アンカーの任命式も終わり、寄宿舎を引き払う為に、荷物の整理に向かう。
「…工藤…くん?」
入り口で、工藤君が待っていた。
「先に寄宿舎に向かったんじゃ無かったんだ…」
「蘭が…なかなかこないから、ココで待ってたんだよ」
「別に…待ってもらう必要ないよ…」
そう言ったわたしに工藤君は辛そうに目線を伏せる。
傷つけた…のかも。
「ごめんなさい。そんなこと言うつもり無かったの。ごめんね、工藤君」
「待った、工藤君じゃなくって新一。オレはオメェの事、蘭って呼んでんだぜ。だから、オレの事も新一」
そう言って彼はニッコリと笑う。
冷酷きわまりない、催眠術師工藤新一って…否能力保持者の間では言われてるけど、わたしには…そうは見えなくって、わたしに…微笑んでくれてるときは…なんか懐かしい感じをずっと覚えて………。
やっぱり、わたしは工藤君の事知ってるのかな…。
彼の瞳って深い深い海の色に似てる。
グランブルーって言うんだよね…。
「なっ何?」
「えっあ…ごめんなさい」
工藤君の言葉に我に返る。
「わたし、先に寄宿舎行ってます。ちょっとよりたいところもあるから」
そう言ってわたしは彼の側から離れる。
ちょっと会わなきゃならない人がいるから。
アンカーの一年先輩の友達。
「蘭、ここよ」
「ごめん、綾弥、遅くなっちゃって」
ISSAのビル内にあるカフェテラスで戸塚綾弥と都築雅が待っていた。
ちなみに、綾弥と雅は否保持者で雅がファーストで綾弥がセカンド。
「頼みたいことって何?」
わたしが席に着くなり綾弥は聞いてくる。
「調べて欲しいの」
「誰?」
「工藤新一…」
わたしの言葉に綾弥と雅は顔を見合わせため息をつく。
何だろう。
「蘭、知らないの?あなたのファーストが何者なのか」
綾弥の言葉に頷く。
「調べる必要なんてない人物よ。彼は」
「どういうこと?」
そう聞くわたしに綾弥は呆れたようにため息をついた後、工藤新一の経歴を並べあげた。
「工藤新一。世界で有数の財閥、工藤財閥の御曹司。工藤財閥といえば、世界最大のグループ鈴木コンツェルンと肩を並べるほどの財閥。本社は現在、アメリカの西海岸ロサンゼルスにあって、会長は彼の父親、工藤優作。会長である工藤優作といえば、世界でも屈指の推理小説家。母親の工藤有希子といえば、結婚前は世界中の映画賞を総なめにしたトップ女優。年収はこれまでの人気俳優や人気女優を抜いてのトップ。今までに彼女を抜いた人は一人もいないわ。工藤新一と言えば、日本における工藤財閥の会社はほとんど彼の名義よ。そして、彼の頭脳はアメリカの研究所がのどから手が出るほどの持ち主。アンカーでは、都築雅の成績を抜き去った人物。他に知りたいことは?」
工藤君の経歴を知って驚く。
でも、何でそんな人がアンカーになりたがるの?
「さぁ、理由は知らないわ。蘭、もう少し、突っ込んだこと調べる?彼の住んでたところとか、どうしてあなたをセカンドに指名したのか…」
「そんなことまで調べられるの?」
「当然、ISSAのデータベースに忍び込めば問題なし」
綾弥はわたしの不安をよそにさらりと言葉を紡ぐ。
「そう簡単に入れるの?」
「大丈夫、あやはハッキングのプロだから」
わたしの不安を見透かしたのか雅が言う。
「そうよ。だから安心して。一応、それなりの準備はいつもしてるから」
そう言って綾弥はバックからたくさんの小さな機械を取りだす。
「あーや、持ちすぎじゃないのか?」
「いつもこのくらいは持ってるけど、さて、潜り込みますか」
そう言って綾弥はノート型のパソコンを操りだす。
「ハッキングがばれるって事はないの?」
「ばれてるのはしょっちゅうらしいよ。でも逃げるから大丈夫だって、おんなじので入ってないから拠点先が見つかることはないって。でも、はっきり言って鬼ごっこしてるより入ってるのがばれないほうがいいだろって言ってるんだけどね」
そう言って雅は綾弥を見る。
「鬼ごっこしてたほうが楽しくない?雅。さぁ、入ったわ。工藤新一の特殊能力は…と…催眠術か…。ランクAだって…」
Aランクって講師並なんじゃないの?
「んー…駄目だ。工藤新一のデータベースに入れない。…蘭、あなたのベースにも入れないわよ。どういうこと?」
「よっぽど頑丈に出来てるって事だよ」
「んー許せんっ。この私にたて突こうなんていい度胸してんじゃないのっ。戦闘モードオン」
せっ戦闘モード?
「あや、ココで仕掛けるつもりか?見つかったらどうするんだ?」
「大丈夫よ。10コのファイアーウォールがそう簡単に全て突破される事は無いわ。向こうの壁破ってやるっ」
「そんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫よ。んーかなり強いやつ使ってるわね。噂の新型ファイアーウォールかな?だとしたら……こうしてみよう」
そう言って綾弥はパソコンを操作していく。
「こうなったら綾を止められるやつはいない」
「雅でも無理なの?」
「まぁね。工藤新一が…君を自分のセカンドにしたのは……たぶんオレと同じだよ」
コーヒーを口に運びながら雅は言う。
「一緒って?雅は綾弥をセカンドに指名したの?」
「まあね」
「理由は」
「……秘密って言ったら怒る?」
そう言って雅は微笑む。
なんか…からかわれてない?
「まぁ、その理由が解ったら…、君はもう少し、工藤新一を理解できると思うけど」
「理解ねぇ…よく言うわ。さて、蘭、あなたの周りにいる友人達は何者?黒羽快斗、中森青子、服部平次、遠山和葉…彼らのデータベースにも入り込めないわよ。特殊なものが存在してるって言ってもいいわね。でも、工藤新一のすんでたところは、あなたの住んでたところと同じヌーベルトキオシティ内に存在する、米花町よ…いつごろかは解らないけれど、彼がそこにいたのは間違いないわ。もう少し時間が待てるって言うなら…後で、入り込んでみようと思うけど…。どうする」
「ありがとう…。でも、大丈夫。そのくらい解れば……。じゃあ、わたし行くね」
そう言ってわたしはその場を立ち去る。
不安なのは…変わらない。
彼は何者なんだろう。
聞けば聞くほど彼が遠い人物に感じた。
「…快…オレ辛い」
「そんな情けねぇ声で言うなよ。工藤新一ともあろう人間が」
快斗はオレの言葉を受け、そう答える。
蘭は…明らかにオレから一線引いてる。
前みたいに話せる…そう思った瞬間にすぐにはねつけられる。
「新一はさぁ、簡単に忘れると思ってるの?」
「え?」
突然の快斗の言葉。
どういうことだよ…。
「青子が言ってたんだけど、蘭ちゃん能力保持者みたいだって…。オレも聞いて驚いたんだけど…どうも、隠してるらしいんだ。ア、蘭ちゃんがじゃないよ。講師陣がだよ」
「蘭の特殊能力ってなんだ?オレは知らないぞ」
「オレだって知らないよ。けどね、オレはそのオマエのこと覚えてないのは、その能力がなんらかに関連してるんじゃないかって言ってる。和葉ちゃんがダイブすれば解るだろうって言ってるよ。平は、させたそうじゃないけど」
快斗の言葉にオレは考える。
蘭の側を離れて…アメリカにいた期間は短い。
側にいた期間から考えると微々たるものでしかない。
けど、その期間がどれだけ辛かったか…オレが一番よく解ってる。
オレは…ずっと蘭の側にいたかったんだから。
側にいられなかった期間に何かがあったと考えるほうが正解だよな…。
「オマエが自分の力使えば、蘭ちゃんを元に戻せるんじゃないのか?」
「それよりも前に…蘭に近寄らせてもらえねぇよ…」
「そのために蘭ちゃんをセカンドに指名したんとちゃうんか?」
服部が部屋に戻ってくる。
「荷物…まとめに来たんだろ?勝手に話しに入るなよ」
「これからの同居人に冷たいこと言わんといてや。上から了解もろうて来たで、オレらパーティ組んでもえぇって」
服部の言葉に頷く。
能力保持者は、ココで行動するために、パーティを組む必要が出てくる。
パーティのメンバーは上に了承もらえないと無理だが…了解が得たらしい。
「ともかく、今考えても埒がアカンやろ。和葉のダイブを使うんも、工藤の催眠つかうんも蘭ちゃんがもうちょっとオマエに慣れてからの方がえぇやろ」
「平の言う通りだな。コの一年、お前達二人数えるほどしか話してないだろ?」
快斗の言葉にオレは頷く。
話したくても話せない。
側にいたくてもいられない。
それが…ココまで辛いとは…解ってたけど…。
「準備できたでっ。ん?まだ出来てへんの?」
和葉ちゃんが俺達の部屋にやって来る。
「アタシらは準備終わったで、そっちはどうなん?」
「…オレは…終わってる…和葉ちゃん、蘭はどこにいる?」
「蘭ちゃんやったら…青子ちゃんとおるよ。呼ぶ、すぐそこで待っとるから…」
そう言った和葉ちゃんにオレは首を振る。
どうしたら解らない状況なのに、蘭の側にいけない。
『新一君、青子、蘭ちゃんと待ってるから早くおいで。快斗も連れてきてねっ』
無邪気な青子ちゃんの声が回線を通して入ってくる。
青子ちゃんの能力は、テレパシーとサイコメトリー。
青子ちゃんのテレパシーは、オレや快斗や和葉ちゃんと違って誰とでも出来る。
サイコメトリーは…思念や力を読み取ることが出来る。
かなり特殊な能力だ。
サブで、テレポートとか、テレキネシスとか出来るらしいけど、かなり狭い範囲らしい。
「服部、オレと快斗先に行くわ。家の場所、解ってるだろ?迷わねぇよな…」
「それなら平気や。……工藤、オマエこそ平気か?いつも通りでおりや、その方がえぇから…」
服部の言葉に頷きオレと快斗は荷物を持って部屋から出る。
和葉ちゃんの言う通り、青子ちゃんと蘭はすぐそこで待っていた。
「地下駐車場で待ってれば良かったのに」
「だって、蘭ちゃんがココで待つって言ってたんだもん、青子だけ一人先に行ってもつまらないよ…」
「青子、蘭ちゃんに言った?オレ達がパーティを組むことになったって」
快斗の言葉に青子ちゃんは頷く。
「同居も?」
オレのその言葉に青子ちゃんと蘭は驚く。
「えっ同居なの?みんなで新一君の家に?」
「そっ嫌?」
「いやじゃないよ。青子みんなと一緒に暮らせるの凄く嬉しいもん」
そう言って青子ちゃんは微笑む。
そんな青子ちゃんを見ながら蘭は不安そうにオレを見る。
「不安?」
「そういう…つもりじゃ……」
「不安って顔に書いてあるよ。蘭」
そう言うと蘭はオレから顔を背ける。
…これだ。
大丈夫かなって思ったらすぐにかわされる。
「家…ヌーベルトキオシティの…米花町にあるんですよね」
「蘭?」
思いだしたのか?
「人に調べてもらいました。あなたの家が米花にあるって事」
ハッカーか…。
ハッキングのプロはアンカーにたくさんいるからな。
工藤家のデータベースか、ISSAのデータベースに入れるのなら…かなりの人物って事か。
「そうだよ、オレの家はヌーベルトキオシティの米花町。蘭、オメェの家のすぐ近くだよ。古びた洋館…このぐらいは知ってるだろ」
そう言うと蘭は頷いた。
「あそこが工藤君の家なのね…」
「工藤君…ね…」
蘭が…オレのことを新一と呼んでくれないことに思わずこだわる。
「あっごめんなさい」
咎めたつもりは全くないのに、蘭は謝る。
「謝る必要はねぇよ…。簡単に変えられねぇよな、今まで工藤君って呼んでたのに、いきなり新一なんてさ…」
そう言って自嘲気味に笑う。
はぁ…オレ…耐えられるのかな。
蘭の記憶が無いことに。
「…あのねっ…そう言う訳じゃないのっ」
蘭がオレの様子に戸惑ったように話しかける。
「なんか…名前呼ぶのが…恥ずかしいって言うか…なんて言うか」
そう言って蘭は顔を赤くしながらうつむく。
うっ……。
メチャクチャ可愛い。
抱き締めそう。
「恥ずかしがる必要ねぇよ」
オレはそう蘭につげるのが精一杯になってしまった。
とりあえず、オレ達はヌーベルトキオシティ内の米花町にあるオレの家に向かう。
「懐かしい」
誰かが声をあげる。
古びた洋館は工藤財閥傘下のハウスキープ会社に清掃や、手入れをさせた。
3年人が住まなかった家だ。
かなり痛んでるだろう。
そう思ってのことだ。
「きれいな庭…」
そう言って蘭は庭に入り立ち尽くす。
「どうしたの?」
「…解らない」
そう言ってオレの方を振り向いた蘭は涙ぐんでいる。
「らっ蘭?どうしたんだよっ」
「解らない…解らないの…」
そう言って蘭は悲しそうにうつむいた。
「とりあえず、部屋どうする?新一」
「オレは自室。どうせ、前使ってた部屋にするんだろ?」
おれの言葉に快斗と青子ちゃんは頷く。
「前使ってた部屋って?」
「快斗や、青子ちゃんも昔、ココに居候してたんだよ。服部や和葉ちゃんもね…」
それから…蘭も…。
その言葉はつなげずにオレは蘭に説明する。
「ふーん」
そう言って蘭は荷物を玄関に起き、家の中に上がる。
「ねぇ、わたし、この部屋で…いい?」
そう言って蘭が決めた部屋は…オレの部屋の隣の…蘭が使っていた、蘭専用の部屋。
「いいよ、蘭の好きなように使っていいよ」
「ありがとう…」
そう言って蘭は微笑む。
懐かしい笑顔。
その笑顔をオレに見せてくれた。
今は…それだけで充分。
ふとそう思う。
「工藤、部屋はどこでもえぇんか?」
荷物を持って服部達がやって来た。
「早かったな」
「飛ばしてきたんやっ」
そう言って服部は自分が使っていた部屋に荷物をほうり投げる。
「荷物ほうり投げるんだったら…部屋はどこでもいいんかって聞くなよ」
「えぇやんか、何となく聞きたい気分やったんや。ところで、蘭ちゃんはどこにおんねん?」
服部が聞きに二階に上がった理由に気づく。
蘭の様子…か…。
この家にいる全員が思ってる蘭の様子。
「蘭だったら、この部屋にいるよ」
「その部屋……か……」
そう服部が呟いたとき蘭がドア影からひょこっと首を出す。
「蘭、どうした?」
「この部屋、なんかわたしが好きなものばっかりあるんだけど、何で?」
「……ここは蘭の部屋だからだよ」
オレとの記憶が消えてる蘭に言ってもいいのか解らなかったけれど、オレは蘭に言った。
「わたしの…部屋?」
「そう…。その部屋じゃ…いや?嫌だったら変えてもいいよ」
「ココがいい」
そう言って蘭は嬉しそうに微笑んだ。