目が覚める。
見覚えがあるような部屋。
「目覚めたか?」
わたしを心配そうにのぞき込んでいる顔。
「うん…ここは?」
「オメェの部屋だよ」
と彼の言葉。
あぁ、そうだ。
ココは、わたしの部屋。
一番、大好きな人の隣の部屋。
「気分はどうだ?」
「大丈夫…。心配しないで」
あなたの言葉にわたしは答える。
「急に倒れたからさ…メチャクチャ心配した」
わたしの頭を優しく撫でながらあなたは言ってくれる。
「じゃあ…オレ、下に行ってるからさ」
さびしそうなあなたの顔。
どうしてそんな顔してるの?
いかないで…。
わたしの側にいて。
「いかないで…」
「え?!」
「いかないで、どこにもいかないで。帰ってきたらずっと側にいてくれるって言ったよね。お願い、わたしのそばにいて…わたしをひとりにしないで」
わたしの言葉にあなたは戸惑う。
でも、わたしはあなたの側にいたいの。
お願いだから離れていかないで。
くるし…。
包み込む苦しさに気づく。
抱き締めてくれていると気づいたのは苦しさを感じた後。
「帰ってくるの遅くなってごめん。なかなか側にいられなくってごめん。もう側からいなくなるって事絶対に無いから。ずっと側にいるから」
耳元で囁くあなたの声。
大好きだったあなたの声。
ずっと聞いていたいの。
「…どうした?」
「約束するね」
わたしの言葉にあなたは首をかしげる。
「わたし…あなたのことを守るから」
あの人にあなたが帰ってきたことを知られてしまった。
あなたはあの人から守らなくちゃならないの。
だから心配しないで。
わたしがあなたを守るから。
「守るって…何を」
「あのひとから絶対に守るから…。いつか言って。わたしに約束してくれたこと」
「約束?」
覚えてないよね。
わたしだけ?
覚えているのは…。
でも、あなたを守らなくちゃ…。
あなたの体温が心地いい。
包まれている。
それが…スゴク好き。
「……蘭?」
小さな寝息が聞こえる。
どうやら寝ちまったらしい。
ISSAの本部から戻ってきて蘭が意識混濁状況で倒れて慌てて部屋に連れてきた。
灰原が、蘭に施していたのは催眠。
……だが…なんのために蘭に催眠を?
蘭は言った。
「あの人から守るから…」
と…。
あの人って言うのは誰だ?
灰原なのか?
じゃあ、灰原が蘭に催眠を掛ける理由はなんだ?
蘭は何からオレを守るって言うんだ…。
あぁ!!!
もう、全然わかんねーよっっっ。
「蘭ちゃんの様子はどうだ?」
そう言いながら入ってきた快斗そしてその後を服部と和葉ちゃんが付いてきた。
「いまのところ落ち着いてる…。心配掛けて悪かったな」
「そんなこと気にするなよ」
「で…立ち直れそうなん?」
「何とかね…。一時はダメかと思ったけど」
和葉ちゃんも服部の後を付いて入ってきた。
「天国から地獄か。今までほっといた罰とちゃうか?」
「服部、うるせぇよっ」
「新一、誰が催眠掛けてるのか分かってるのか?」
「まあね」
快斗もやってきた。
「誰がかけとんの?」
「…秘密。確証は無いけど、まず間違いない。オレだって、催眠使えるんだぜ?いつ掛けているのかぐらい分かるさ…。ただ、問題は…その催眠がどういうタイプのものかって事だけだよ」
そう和葉ちゃんに答える。
「なんで蘭に催眠が掛けられているのか、そして、それがなんの催眠なのかさえ分かれば…とけるんだけどな…」
「ダイブする?」
オレの呟きに和葉ちゃんが答える。
それは…考えててた。
けど…。
「和葉ちゃんまで催眠にかかる可能性があるんだぜ。申し出は嬉しいけど…。現段階ではまだやりたくない」
もう少し、蘭の催眠が解けてからにしたい。
「まてや、工藤。ちゅー事は、お前、和葉にホンマにダイブさすきやったんか?」
服部の言葉にオレは頷く。
「自分なぁ、何言う取るのかわかっとんのか?」
「あぁ、分かってるさ。蘭の精神の不安定な理由を探しだすにはダイブしかない。サイコメトリーよりダイブの方が強い。それはお前だって分かってんだろ?」
「そんなもん言われんでも分かっとる。オレが言いたいのはっっ」
その時だった。
「ダメだよ、蘭ちゃんが寝てる側で喧嘩しちゃっ。それより、もう少ししたら誰か来るよ」
青子ちゃんがそう言って入ってくる。
「誰かって誰?」
「多分、佐藤刑事だと思う」
青子ちゃんの言葉に窓から外に目を向けると、ちょうど佐藤刑事らしき人物が門から入ってくるのが見えたのだった。
「工藤君、久しぶりね」
「お久しぶりです」
居間に通した佐藤刑事と高木刑事に軽く挨拶する。
佐藤美和子警部補(1st)と高木渉巡査長(2nd)の二人は警視庁所属のアンカーで、否能力者だ。
「蘭さんは?工藤君のセカンドになったって聞いたけど」
そう言って佐藤刑事は見舞わす。
「えぇ、蘭はオレのセカンドですよ。聞いたんですか?」
「違うよ工藤君。ISSAのデータは全て警視庁を通すから。それの関係でね」
と高木刑事。
「そう言えばそうですね。ところで、今日はどうしたんですか?」
通常、仕事はISSAの本部からデータとして送られてくる。
だから、二人が来たことに不思議に思い聞こうとしたときだった。
「……佐藤さん?」
不意に入り口が開き蘭が顔を見せる。
「ア、やっぱり佐藤さんだ。お久しぶりです佐藤さん」
「蘭さん、元気そうね」
「ハイ、おかげさまで。今日はどうしたんですか?」
蘭の言葉に佐藤刑事と高木刑事は止まる。
そんな二人の様子を見ながら蘭はオレの隣に座る。
「大丈夫か?」
「うん」
オレの小さな問い掛けに蘭は頷く。
「どうしたんですか?」
快斗が何事がおこるのかと訝しがりながら声を掛けた。
「おねがいっ、私たちに協力してっっっ」
協力???
ってなんだ?
思わず、顔を見合わせる。
「依頼みたくなっちゃうかもしれないんだけど」
そう前置きして佐藤刑事と高木刑事は持ってきた資料をテーブルの上に広げる。
その資料の一つの写真に目が留まる。
「これ…凶悪犯の立木修介じゃないですか」
立木修介。
つい最近、連続殺人犯として逮捕された人物だ。
「……実は…搬送中に…」
佐藤刑事のとぎれとぎれの言葉にいやな予感がしてくる。
「まさか…逃げたなんて事ないですよね」
最初に聞いてみると、
「その通りなのよっっ」
と身を乗りだして佐藤刑事は言ってきた。
「今朝、拘留していた警察から刑務所の方に搬送することになっていて、まぁ取りあえず予定通りの時間に出発したのね。所が、ある交差点の所まで来たときタイミング悪くトラックの横転事故に遭遇。(地上線を走ってます)その時、何故か搬送車が襲われたの。そして、まんまと立木修介は逃亡。警護に付いていた警官一人死亡、二人の重軽傷者を出してね」
「まだ、警察はそのこと発表してへんな」
服部がテレビをつけながら言う。
「発表出来る訳ないでしょ、こんなこと。連続殺人犯を逃がしたなんて」
「でも、バレルのも時間の問題ですよね。情報を、操作していても、立木修介が殺人を犯したら」
「そう…だから、協力して欲しいの。立木修介の逮捕に」
「本来なら、アンカー本部に依頼をするべきなんだけど、緊急事態ということもあってあまり警察としてはこのことを広めたくないんだよ」
佐藤刑事の言葉に高木刑事が補足するように言葉を足す。
「お願いっっ。無理なことだとは分かってるわ。けど、どうしても、こんなこと頼める人いないのっ」
佐藤刑事の言葉にオレはため息をついた。
「しゃあないな、手伝うんやろ?」
服部の言葉にオレ達は頷いた。
杯戸港4番倉庫街
オレ達が今いるのは4番倉庫街。
人の気配が全くしない。
立木修介を追わなくてはならないのに何故この場にいるのかというと、警察はココに立木修介を追い込んだからだ。
「なんで立木修介の居場所わかるのかしら?」
オレに蘭が聞いてくる。
「逮捕され、起訴された人間には現在、マイクロセンサーを埋め込むんだよ。」
「…初めて聞いた」
「今年からなんだけどね、マイクロセンサーを体内に埋め込むことによって犯人逃亡や再犯防止に役立てようって訳。前科とか全て分かるようになるんだよ。で、そのセンサーを使って、追い込んでるんだ」
「そうなんだ…」
蘭はオレの言葉にうつむく。
「さんざん、反対され続けたんだけどね、人権問題だとか言って」
オレの後からつけた言葉に蘭は遠くを見つめる。
今回、オレ達は3ヶ所に別れることになった。
とは言っても今回の本命はオレの催眠。
犯人をオレと蘭がいるところに追い込んでオレの催眠で動けなくすることだ。
蘭は、レーダーを確認する役目。
オレは催眠に集中する。
そうして立木修介の出現を待っていた。
ちなみにオレのいるところは当然のごとく本隊なので、今回指揮を取っている佐藤刑事と高木刑事がいる。
「佐藤刑事、どうですか?」
蘭が近付いてきた佐藤刑事に話しかける。
「いまのところ、立木修介は順調にここに近付いてきてるわ。問題は無いわね。ここら辺になってきたら蘭さんのレーダーにも反応するから安心して」
「そうですか」
佐藤刑事の言葉に蘭はフゥっと一つ息を吐く。
「蘭、緊張してるのか?」
「えっ?!」
蘭はオレの言葉に驚いたのかはじかれたようにオレを見上げる。
「緊張してるのか?」
「…そうかも…しれない…。わたしがこんなんじゃダメですよね。ごめんなさい」
「謝る必要ねぇだろ?誰だって緊張する」
「緊張してるの?」
蘭の言葉にオレは軽く微笑む。
「そっか…」
なにか安心したように蘭は微笑んだ。
あれから蘭の精神の乱れはない。
ごく普通にみんなにそして、オレに接してくる。
名前でも呼んでくれないけれど。
時たま敬語になるけど。
あの時のような精神の乱れはない。
催眠と言うものは、継続的且つ、定期的に掛けないと意味がない。
もし、灰原が蘭に催眠をを掛けていると考えると、蘭と灰原は定期的にあっていることになる。
通常病院等での通院の場合は一週間から2週間。
ISSAの日本支部に行ってきたのが卒業から3週間後。
催眠を掛けないとそろそろ催眠がとけるころだ。
あの時灰原が蘭に催眠を掛けていて、それに対して蘭が拒絶反応を起こしたとすれば、あの意識混濁状況は納得がいく。
上手くすればオレの催眠でとけるかもしれねぇ。
でも……。
そこまで考えて頭を抱える。
解けなかったららどうする。
下手したら、蘭の精神が崩壊する。
それだけは避けたい。
それを避けるにはダイブが一番良いんだけど…。
外部から間接的に催眠を掛けるよりも…和葉ちゃんとシンクロして、内部から落としてったほうが絶対に良いんだけど…。
服部がなぁ…納得いかねぇだろうしなぁ。
現場近くに迷い込んだ子供を見送っている蘭を見ながら考える。
ゆっくりでも良いのか?
もう、本部にいくことはほとんど無い。
蘭と灰原が接触することも無いはずだ。
催眠が解けるのをじっくりと待てばいい。
そう思った。
「えっ。レーダーに反応っ。来るよっ」
そう蘭が叫んだときだった。
突然、蘭が男によって拘束されたっ。
「立木修介っっ」
男は立木修介だった。
普通に拘束されているんだったら、蘭は一人で抜け出せただろう。
あぁ見えても蘭は空手の達人。
なんど練習台にさせられたことか…って言ってる場合じゃねぇ。
立木修介はどこから手に入れたのか刃物を持っていた。
その刃物を蘭に当てているために、蘭は自力で抜け出すことが出来ないでいる。
立木修介は突然現れた。
テレポートで現れた感覚はない。
とすると、高速移動かっ。
クソっ。
蘭を連れていかれたらどうすることも出来ねぇぞっっ。
「佐藤刑事、よく立木修介を逮捕することが出来ましたね。彼、高速移動出来ますよ」
「彼の能力は直線500mが限度。一度使うと数時間は使えない特殊能力。そのおかげで逮捕できたのよ…でも…」
蘭が人質になっている。
どんな要求をしてくるか分かったもんじゃない。
方法は一つ。
催眠を掛ける。
ただ…蘭に催眠がかかる可能性がある。
二重催眠にはしたくない。
どうするっ。
オレは必死になって考える。
首筋にひんやり触れるナイフ。
血の気が引いてくるのが分かる。
少しでも動いたら…血が吹きだすだろう。
どうするの?
どうしたらいい。
目を閉じて考える。
『オレの声だけ聞いていて』
ふと思いだす言葉。
『オメェのこと助け出すから、オレのこと信じてろよ』
信じてるよ。
『オレの言葉に集中して、何も感じなくて良いから』
分かったから。
信じてるから。
ここから立木修介のところまで、30m…。
蘭を違うところに意識を向けることは到底難しい。
蘭の催眠は音声…。
だったら…。
「蘭っ」
『…信じてるよ』
オレの声に蘭は声を出さずに答える。
蘭は覚えてるのか?
昔のことを。
昔、蘭が今回のように捕まえられたことがあった。
その時オレは催眠を蘭を捕まえたやつに使ったのだ。
声でなく、動作で。
相手はオレが蘭に話しかければ自然とオレの方を見る。
蘭はオレの言葉だけに集中するようにと言ってあるからオレの方は見ない。
それを狙うのだ。
オレは言葉を紡ぎ、蘭は目をつぶって静かにそれに耳を傾ける。
そして、立木修介はオレの動作の催眠に静かにかかっていった。
刹那、立木修介は蘭を解放し膝から崩れ落ちた。
催眠にかかり眠りに入ったのだ。
「蘭っ」
走り寄ってくる蘭をオレは抱き締める。
「大丈夫か、どこも怪我してねぇよな」
「うん…大丈夫。怖かったけど…スゴク怖かったけどでも…信じてたから、絶対に、何とかしてくれるってずっと信じてたから」
立木修介を確保して警察はその場を立ち去る準備を始める。
「蘭さん、ごめんなさいね」
佐藤刑事はまだ涙目の蘭に謝る。
「そんなことないです。わたしが不用意に一人にならなければあんなことにはならなかったんですから。それよりも良かったですよね。さっきの子供が人質になるって事なくって」
「ありがとう、蘭さん。協力、ホントにありがとうっ」
そう言って佐藤刑事は他の警官と共に現場を去っていった。
「あれ?新一君と蘭じゃない?」
聞き覚えのある声が突然聞こえてきた。
振り向くと…
「園子っ。なんで園子がこんなところにいるの?」
「わたし?わたしは倉庫の下見よ。一応、鈴木財閥の次期会長だもんね」
「そうだよね」
そう、蘭の親友の鈴木園子。
小さいころからの知り合いで、当然のごとくオレも知りあい。
「アンカーに入ったって事は聞いたけど、元気そうで安心したわ。二人とも上手くいってるんじゃないの?」
園子のからかいにもにた言葉にオレは苦笑する。
上手くいってるのか?
今一つ…自信がない。
「じゃあ、わたしまだこれからいかなきゃならないから。後で遊びに行くわっ」
そう言って園子は遠くで待っている部下の人の所に戻っていった。
「さて、オレ達も帰るか」
そう声を蘭に掛けたときだった。
自分の身体を抱き締め、蘭は苦しそうにしている。
「蘭?」
「新一…逃げて」
蘭は、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「…いきなり…蘭」
「早く遠くにっっ」
そう叫んで蘭はうずくまった。
突如、頭の中で何かが響く。
音と気づいたときは轟音を体中で感じ、その轟音にたまらず耳を塞ぐと目の前に、波…音の波がやって来たのに気づいた。
「キャーーーーーー」
突然、青子が耳を塞いでうずくまる。
何事かと思った瞬間、何かが勢いをつけてココまでやって来るのが見えたかと思うと、轟音に包まれた。
音が聞こえないわけじゃない。
これは、身体の中から聞こえてくるように、音が身体の中に入っていく。
「青子っっオレの声聞こえるかっ?!」
頭の中に鳴り響くような轟音に耐えながらオレは青子に声を掛けた。
「うん、大丈夫。テレパシーが全然ダメだけど、快斗の声は聞こえるよ」
「オーケー。これ、どこから来てるか分かるか?」
オレの言葉に青子は顔をゆがめる。
「…蘭ちゃんか?」
「うん、これ、蘭ちゃんの特殊能力だよ」
「へーじー」
「泣くなや。オレの側におったら平気やから、絶対に離れるんやないでっ」
オレはモノ凄いエネルギーの奔流をサイコバリアでふさいでいた。
音。
轟音とも言うべき音が、あたりで氾濫していた。
サイコバリアが使えるのはオレのみ。
せやから、快や工藤はまともにこのエネルギーを食らっとるはずや。
エネルギーの方向からみて、場所は工藤がおる場所。
工藤はもっとひどいかも知れん。
「これってなんなん?」
テレパシス系に直接反応するこのエネルギーにテレパシーが使える和葉はもろに影響をうけてしまった。
せやから和葉を抱きかかえ狭い範囲で強力なサイコバリアを張っとる。
和葉の質問に答えようとしたときやった。
『服部?』
通信用小型バッジから、工藤の声が聞こえる。
「工藤、どないしたんやっ」
『服部っ今、どこにいる?』
「今、工藤がおる場所のから近いところにおるで。快ちゃん達は入り口近くや」
『そうか…だったら、今すぐココから…脱出…っしろ』
エネルギーはかなり強力なものらしく、工藤の声は息も絶え絶えになっとる。
「何言うてんねんっ工藤。お前と蘭ねーちゃん、エネルギーの中心におるんやろ?そのお前らを放ってココから脱出できるわけないやろっ」
『……蘭が…エネルギー源なんだよっっっ』
なんやて?
工藤が紡ぎだした真実にオレは耳を疑う。
「工藤君、和葉やけど、じゃあ、これって蘭ちゃんの能力なん?」
『多分…っ。っ……蘭は…今っ暴走してるっ』
暴走。
能力が自分でコントロール出来ない為に起きる現象。
オレも、和葉もなったことはあらへん。
蘭ねーちゃんの能力は特殊やから暴走することがあると昔工藤から聞いた覚えがある。
「どないすんねん…」
『やれることは…っ全部やってみるっ。服部っ…頼みが…っ…あるんだ…』
「なんや」
『もし……ダイブ…頼んだぜっ』
そう言って工藤は通信を切った。
「平次……」
和葉の声を聞きオレは和葉を連れて脱出した。
『やれることは全部やってみる』
オレはそう言って服部との通信を切った。
どうすれば出来る。
膨大な音の洪水に蘭は必死に耐えている。
押さえようとしても、押さえきれないのだろう。
苦しそうに身体を押さえている。
音の強大なエネルギーがオレと蘭を圧迫していく。
ここにかかってる体感のGは凄いことになってるんだろうな…。
そう考えながらもオレは蘭に近付く。
昔、蘭が暴走したことがあった。
オレ、その時どうやって蘭の事戻した?
記憶にない。
覚えてるのは蘭が暴走した瞬間と蘭が意識を取り戻したとき。
オレ…どうやって蘭を戻した?
「…っ蘭…」
近付けば近付くほど身体にかかる音が強さをましてくる。
蘭はこれに耐えているのか?
力を振り絞ってオレは蘭に近づき、蘭を抱き寄せた。
どうしているの?
「逃げてっていったじゃない」
わたしの言葉にあなたはただ静かに微笑んでる。
「どこにも行かないって約束したろ?」
そう言ってわたしをじっと見つめる。
「側にいてくれるの?」
「あたりめぇだろ?オレはずっとオメェの側にいてやるよ」
夢のような言葉が聞こえる。
「………夢じゃないの?」
「バーロ。夢のはずねぇだろ。今、オメェのこと抱き締めてるオレも夢だって言うのかよ」
そう言ってわたしの額にまぶたに頬に口付けて行く。
「小さいころもよくしてくれたね」
「これからもしてやるよ。他のこともな」
「ほっ他のこともって…?」
突然の言葉に焦ったわたしに向かって甘やかに微笑んだかと思うと息苦しいほどに口付けされる。
狂おしいほどの感情が流れてくる。
途端にわたしの中に沸き起こる思い。
守りたい。
この人を。
世界で一番大切なこの人を守りたいの…。
だから、この人に誰も何もしないで。
守るから…ね…。
「振動が…止まったな」
「そうやな…工藤がとめたんやろ」
オレの言葉に平がうなずく。
平達は新一からの通信の直後に、オレと青子がいる入り口近くにテレポートしてきた。
「平、新一と通信したんだろ?なんて言ってた?」
「……下手したら、姉ちゃんに取り込まれるそう思うたんやろな…。ダイブしてほしいって言うてきた、それより快、蘭ねーちゃんが前に暴走したとき知っとるか?」
「知らない……新一は知ってるみたいだけどな。」
「さよか…」
「蘭ちゃん…大丈夫なの?」
オレと平の会話を聞いていた青子が不安そうに聞いてくる。
「……さぁな…。…新一次第…かな」
としか言えなかった。
そのときだった。
車の音が聞こえ、オレたちのすぐ隣につけられた。
「工藤っ」
運転席には新一、後部座席には蘭ちゃんが寝かされていた。
「大丈夫なんか?」
「……なんとかな」
平が新一に聞く。
「蘭ちゃん、も大丈夫?」
「…暴走は…止めたけど…。意識が戻らない…。和葉ちゃん、服部…、このまま蘭の意識が戻らなかったら…ダイブ…してもらってもいいか?」
「もどらん可能性は?」
平の言葉に新一は蘭ちゃんに目を向けながら言う。
「わからない。前は、1時間しないうちに戻った。けれど、オレがいない間に蘭は一度暴走している。そのとき、無理矢理その暴走を押さえている。それの影響がどのくらいあるのかが…わからない」
3回目か…。
「平気なのか?3回目の暴走だろ?今回」
「…たぶんな…」
オレの言葉に新一は痛々しくほほえむ。
3回の暴走。
能力者にとって、その能力が暴走することは死に直結することが多い。
そのため、暴走は極力起きないように周りの人間が注意をする。
暴走3回目と言うことは助かる確率のある最低のボーダーラインでこの後暴走したら、廃人となる可能性が高い。
だから極力気を遣うはずだけど…。
「蘭ちゃんの能力まではわかったんか?」
「知らないよ。オレ、蘭が能力者だって事知らなかったんだぜ?おまえらも気づいてたか?」
新一の言葉にオレたちは首を振る。
「多分な、蘭の能力はかなり特殊な物なんだ、その特殊さからそれが能力だと気づかれずにいた。蘭が今日みたいな事になったのはオレが知る限り、ガキの頃ただ一回だ。あのときの原因は極度なストレスから。あの当時、蘭の両親は離婚しそうな勢いでけんかをし続けてたからな」
「2度目に暴走したのは学校内って事か」
「あぁ…」
約1年ほど前、新一の存在がクラスから消えた頃、蘭ちゃんは突然暴走した。
原因は謎。
その場にいた誰もが、
「新一がいないせいで、蘭がおかしくなった…」
そう考えた。
逆にそう考えさせられてるかのどっちかだ。
「ともかく、いったん帰ろう」
その言葉にうなずき、オレたちは家路につく。
「快斗…蘭ちゃん、大丈夫だよね」
その道すがら、そう問い訪ねる青子にオレは…何も言えずにいた。