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Mission - 3

「蘭ちゃんの様子どう?」
「眠ったまま…だよ…」
 蘭ちゃんの部屋に来たアタシに工藤君は言う。
「不安…なんだ…」
 蘭ちゃんの髪をすきながら工藤君は言う。
「このまま…目覚めないんじゃないかとかって考えちまうとさ…なんであのとき、蘭のことおいて行っちまったのかな…って無理にでもいるべきじゃなかったのかってさ…。後悔ばっかり…」
 蘭ちゃんに目を向けながら工藤君は言う。
 情けない…なんて前は思ったけど…工藤君ってめちゃくちゃ蘭ちゃんの事好きなんやなぁって思う。
「工藤、オレは準備出来たで」
 そう言いながら平次がやってくる。
「和葉、ほんまにダイブしたってもえぇんやな?」
 何度も何度も聞かれた言葉にアタシは邪険に扱わずにしっかりとうなずく。
 蘭ちゃんが…工藤君のことどれだけ好きかって知ってるから。
 蘭ちゃんの為になんかしたげたいんよ。
 いっつも…助けてもらってばっかりだったから…。
「…ほんならえぇわ。工藤、オレも手伝う。えぇな」
 アタシの決意の固さを知り、平次はようやく納得してくれたのか工藤君に協力を申し出た。
「良いのか?服部」
「今更何言うてんねん。蘭ちゃん、戻したいんやろ?遠慮することあらへん。オレは協力する言うてんのやから人の好意は素直に受け取りや」
「ありがとな…」
 工藤君はそう平次に言った。
「オレと青子も手伝う?」
 快斗君と青子ちゃんが部屋に入ってくる。
「特にはないけど…そうやななんかやばそうって思ったら呼んでくれるとうれしい」
「何かって?」
「アタシも詳しいことは説明出来へんのよ」
 青子ちゃんの言葉にアタシはそう答える。
 なにか…それは外で見てる人に判断してもらうしかない…。
 工藤君がおるから何かあった時は平気やと思うけど…。
「で、蘭ちゃんはどうやって起こすんだ?」
「一応…蘭ちゃんが今回、暴走した原因を捜そうって思うてんのやけど……」
 快斗君の言葉にアタシは言葉を選びながら応える。
 暴走した原因…簡単に見つかりそうにないけど。
「和葉ちゃん…オレがいない時に蘭が暴走した時間に行くって言うのは?それだったら蘭が暴走した原因が確実につかめる。蘭が…それを封じてなければ見つかると思う」
「…そうやね…直接そこに行った方がえぇかも」
 アタシは工藤君の言葉にうなずいた。
 危険かもしれない。
 下手に刺激したくないけれど、暴走する直前に接触出来れば…蘭ちゃんを起こすことが出来る。
「和葉、オレはいつでも平気やで。おまえは大丈夫なんか?」
「アタシも平気。えぇよね」
 アタシの言葉に工藤君はうなずく。
「ほんなら先入るわ」
 平次はそう言ってシンクロに入る。
 アタシとシンクロし…そしてアタシが平次を媒介にしてダイブするのだ。
「暴走前の蘭ちゃん…捜す。アタシが蘭ちゃんの名前を呼んだら…起こしてな。ほな…工藤くん…あとはよろしく…」
 そう言ってアタシはダイブを開始した。

 乳白色のもやがかかる内部。
 気づくとそこにいた。
「和葉、おるか?」
 平次の声が聞こえすぐさま姿を発見することが出来た。
「ここは蘭ちゃんの頭ん中なんか?」
「そうやね……まだ精神内部には入ってへんよ。精神内部に入るにはキーワードが必要やで、平次」
「そらやっぱりキーワードは『工藤新一』やろ」
 その瞬間、あたりの風景は一変した。
 どこかの街の商店街。
 見たことのある風景は蘭ちゃんの家の近所をかたどっていた。
「ビンゴっ。和葉、この後どないする?」
 平次がそうアタシに聞いてきた時だった。
 突然目の前に、車が止まり、中からでてきた人がすぐ横にある事務所『毛利探偵事務所』の階段を上っていった。
「なんやろ?」
「なんかあったんやな…」
 そして頭上のちょうど探偵事務所がある二階の部屋から人の声が聞こえてきた。
「どういう事ですかっ蘭が、暴走したなんてっっ」
「説明しろっっ。なんで蘭が暴走したっっ」
「落ち着いてください」
 驚いている男女と冷静な女性の声。
 驚いている男女は蘭ちゃんの両親。
 冷静な女性の声はさっき車から出てきた人だろう。
「はっきりしたことは我々もまだ分かりません。彼女は****病院に搬送され現在意識不明です」
「蘭が…暴走するなんて…」
 女性の声に蘭ちゃんのお母さんは泣き崩れているようだ。
 ここは蘭ちゃんが暴走した後…。
「遅かったんか?」
「それはあらへんよ…意識の中は時間の概念なんてあらへんもん…」
「ほんなら帝丹校行ってみよか?」
 平次の提案にうなずきあたし達は蘭ちゃんと工藤君が通っていた帝丹校へと向かう。
「和葉」
「何?」
 その道すがら、平次はアタシに問いかける。
「さっき一瞬音があらへんかったんやけどあれはなんや?」
「それって女の人が病院のこと言った時?」
「そうや」
 さっき一瞬の音が消え去った瞬間があった。
 通常精神内部では音は認識されない。
 意識的に認識されてないからだ。
 何度かアタシと精神内部に入ったことのある平次はその瞬間に驚いた。
「それはその病院の名前をアタシ達は知らんかった。ただそれだけ」
「なんやて」
 そう、その単語を耳にしないと精神内部では音として発生しないのだ。
「今までそんなことあったか?」
「あらへんよ。…それに今までの場合は全部事情を知っての上や。蘭ちゃんの場合は事情知っとるけど知らへん部分も多い。それが音として発生されてないんよ。それから…今のシーンは蘭ちゃんが後から構成した部分やと思うで。だから目の前で展開されてへん。事務所に入ってった人が女の人やって平次分かった?」
「いや…誰かが入ってったのは分かってけど…。声聞いて…初めて女の人やって言うのが分かったぐらい」
 アタシの言葉に平次は思い出しながら応える。
「蘭ちゃんはたぶん、両親から女の人が自分が暴走したというのを知らせに来たというのを聞いただけ、女の人がどういう人かも知らへんと思う」
「ほんなら…蘭ちゃんが見聞きしたことは見れるし聞けるんやな」
「あたし達が聞いたことがあることならね」
 そうこうしてるアタシ達は帝丹校の近くまでやってきた。
「うまく…暴走する直前に蘭ちゃん見つかるとえぇけどな」
 そう平次が呟いた時だった。
「おはよう、蘭」
「園子、おはよっ」
「新一君から連絡来た?」
「まだ、たぶん、忙しいんだよ」
「薄情なやつねぇ」
 アタシ達の後ろからそう会話してくる女の子が二人…。
「平次っっ蘭ちゃんっっ蘭ちゃん」
「アホっ、服ひっぱらんでも分かるわっっ。和葉、暴走前なんか?」
「たぶん…平次が言うたやろ?『暴走する直前に蘭ちゃん見つかるとえぇけどな』って…それが影響しとると思う」
 蘭ちゃんと園子ちゃんはアタシ達を軽くすり抜けて…学校内へと向かっていく。
「オレらも行くで」
 平次とともに校門をくぐると一気に場面は教室内部へと変わる。
 まだ授業が始まってないのか、教室中は朝の会話でいっぱいだった。
「校門くぐって教室に一気に入れるのはえぇけどなんかな」
「そんなん言わんと…問題はそこやないんやから…」
「まあな」
 教室をぐるっと見回すと蘭ちゃんが園子ちゃんと楽しそうに話してるのが見えた。
 そして、なにか強い精神…悪意…が近づいてくるのに気づく。
「和葉…来たで」
 感じ取った恐怖にあたりは一瞬にして変化を見せる。
 どことなく不安そうな気配の中その人は入ってきた。
「灰原哀」
 平次が呟く。
 間違いなく、その人は灰原哀だった…。
「毛利蘭さんはいらっしゃいますか?」
 涼やかにはっきりと聞こえるような声で彼女はあたりを見回す。
「わたしが…毛利蘭ですけど」
 蘭ちゃんはそう言って彼女の前にでる。
「初めまして、****です」
 彼女の名前が聞こえない。
「音消えたで…灰原哀とちゃうんか?」
「…たぶん違うんやない」
「『灰原哀』っちゅうのは偽名か?」
「そこまではわからへんよ…。せやけど…彼女アンカーにおったんやで。名前変えられんのと違う?」
「データ改ざんすることぐらい分けないで。プロのハッカーならな。それを確認するにはデータはまだ不足やな」
 平次の言葉にアタシはうなずいた。
「わたしに…何か用ですか?」
「えぇ」
 蘭ちゃんの言葉に彼女はにっこりとほほえむ。
「工藤家の***を教えてほしいの」
「工藤家の***?」
 音が消える。
「…和葉…工藤家の『秘密』ってなんや」
「へ?」
「口唇の動き読んだんや。音聞こえへんのやったら口唇の動き読むしかないやろ」
 音の消えたところを言った平次に驚いたアタシに平次は言った。
「和葉、工藤家の『秘密』や。なんかしっとるか?」
「アタシが知る分けないやんか」
 そう答える間にも『灰原哀』は蘭ちゃんに聞いていく。
「世界的財閥の工藤家と懇意にしていたあなたなら知ってるでしょう?工藤家の***を」
「知りません…なんの事ですか?」
「ホントに知らないの?おかしいわね。あなたは幼なじみの工藤新一から、この事について聞かされてるはずよ?知らないって事はないんじゃない?」
「そんなこと言われても…ホントに知らないんですっ」
「困ったわね…」
『灰原哀』はそう呟いて考え込む。
「平次、蘭ちゃんは工藤家の『秘密』について知っとると思う?」
「…さぁな…。せやけど…オレは知っとると思うで。ただな…それは工藤の催眠で消してる。って考えるべきやろな」
 平次は蘭ちゃんと『灰原哀』を見ながら言う。
「…ねぇ…本当に知らないの?」
「知りません…」
「ホントに?」
「はい」
「そう言い張るのはかまわないけれど、こっちは調べがついてるのよ、あなたが工藤家の***を工藤新一から聞いていると言うことを」
『灰原哀』は蘭ちゃんに執拗に聞いていく。
「ホントにわたし、新一から何も聞いてませんから」
「そう…」
『灰原哀』はあきらめたのか一つため息を落とす。
「めっちゃしつこい…。蘭ちゃん可哀想や」
「それだけ重要な事なんやろ。工藤家の『秘密』っちゅうのわ」
「そうかもしれへんけど…。けど、しつこすぎる…」
 アタシの言葉に平次はうなずく。
「蘭さん、じゃあ他のこと聞くわ」
 そう言って『灰原哀』は蘭ちゃんの目をじっと見る。
「和葉…『灰原哀』の様子がおかしい。?!和葉っ催眠やっっ」
 その瞬間平次は倒れる。
 実際にかかるより、精神の中に居る方がかかりやすい。
 だから…平次は倒れた。
 …まさか…蘭ちゃんに催眠で聞き出したって事?
 せやから…蘭ちゃんは暴走した?
 普通に催眠で応えたら…暴走はしない。
 やったら…工藤家の『秘密』蘭ちゃんが守って『灰原哀』がかけた催眠に抵抗したんや。
 あかん、急がんと蘭ちゃんが暴走してまう。
「蘭ちゃん、蘭ちゃん、こっち向いて」
 蘭ちゃんの名前を呼ぶ。
 お願い、気づいて…。
「蘭ちゃんっ。アタシ、和葉っ」
「…かずは…ちゃん?」
 次の瞬間ものすごい勢いでアタシは意識外に出される感覚に気づいた。

「工藤、どういう事や」
 目が覚めた服部はやや遅れて目を覚ました和葉ちゃんを気遣いながらオレに問いかける。
 蘭は…まだ目覚めない。
 医学の知識がオレよりもある快斗が言うには
「もうすぐに目覚めるだろ」
 そう言ってる。
 オレも、長年の勘からそう思う。
「工藤家の秘密ってなんや。それのせいで蘭ちゃん催眠にかけられてんねんで」
「オレも知りたいな」
「なんで快も知ってんねん」
 快斗の言葉に、服部は疑問に持つ。
「ダイブした時アタシ達が話したことは外にも聞こえるんよ。だからみんなしっとる訳」
 服部の言葉に和葉ちゃんが応えた。
「で、工藤家の秘密って何?」
 青子ちゃんがオレに改めて聞いてくる。
「…正直に言っていい?」
 4人の…快斗、青子ちゃん、服部、和葉ちゃん…の視線がオレに注がれ、うなずく。
「知らないんだ、オレ」
「は?」
 オレの言葉にあっけにとられる。
「だから、工藤家の秘密ってなんだかわかんねぇの。オレにも心当たりねぇんだよ」
「そう言うけどな、『灰原哀』は言うたんやで。おまえも、オレが口唇読んだののきいとったんやろ?蘭ちゃんに工藤が自分の家にまつわる秘密を話とるって…。それをおまえが知らんわけ……。…自己暗示…か?」
 服部の言葉にオレは小さくうなずく。
「それ以外ねぇだろ?けど、あいにくオレはその暗示さえも覚えてない。確かめる術は何もない…オレの自己暗示を解くキーワード見つかれば話は別だけどな」
 だいたいキーワードがなんだかも分かってない。
 父さん達に…家の秘密を聞き出すのも手かもしれないけれど…消してると思う。
 暗示かけて…オレが覚えたら消えるようにって…。
 父さんと母さんも能力者だから…。
「ともかく、蘭ちゃんがそれを覚えてるかどうかだよね…」
 長い沈黙の後、青子ちゃんはぼそっと呟いた。

 目を開けると…心配そうにのぞき込んでいた。
「大丈夫か?」
 その言葉にわたしはうなずく。
 暴走…しちゃったんだ…。
 押さえようと思っても押さえられなかった…。
 いてくれなかったらどんなことになっていたか…。
「気分、悪くねぇか?」
「大丈夫…だから…」
 少しだけ突き放すようにわたしは言う。
 わたしは…新一の側に居ちゃいけない。
 新一を守るために新一の側に居ちゃいけない。
 それなのに、どうしてそんなに優しいの?
 わたし、あなたに冷たい態度とってるんだよ?
 どうして…。
 やっぱり、側にいたいよ。
 好きだもん。
「お、オイ…蘭、ホントに大丈夫か?」
 突然、泣き出したわたしに新一は心配そうに聞く。
「大丈夫だから、心配なんてしなくてもいいから…」
 守りたいの。
 理屈…じゃなかった。




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