「アヤ、ちょっといいか?」
リュウの言葉に私は頷く。
「何?急に改まって」
「………ちょっと出掛けないか?」
目的地も言わずにリュウは言う。
「どこに?」
と聞けば、
「ここら辺って本当は観光地だろ?だから、なんつーか、ドライブなんかしないかな?なんて思ったわけでさ」
「あら?もしかしてデートの誘い?」
リュウが用意周到に外出届けを出していたのか、さして呼び戻されることもなく、私たちはリュウの運転で伊豆基地を出る。
「アヤが行きたいと思ってる美術館じゃねえけどさ」
そう言うリュウの運転は初心者とは思えないぐらい安定していた。
「軍に入る前に、免許取りに行ってたんだよ。こういっちゃ何だけど、PTの操縦とそうかわんねぇからさ。結構簡単だったぜ?」
「知らなかったわ。リュウが免許持ってたなんて」
「お袋の病院って結構遠いところにあったからさ。見舞いに行くのも病院連れてくのも車があった方が便利だろうなって…。お袋に内緒で取ってたんだけど、結局ばれてさ」
彼の母親思いの部分はこんなところにも現れる。
「アヤ、車酔いないよな」
「合ったら、PTの操縦は出来ないわ」
「そうだよな」
他愛もない会話をしながら車は山の方に入っていく。
「こっち来てみたかったんだよな」
ナビゲートシステムはリュウの目的地をしっかりと指し示している。
「どこ行くの?」
「ん〜、もうちょっと」
そうリュウは誤魔化す。
木々の間に日が差す。
その日差しは少し柔らかい様な気がする。
真夏の刺すような暑さではなく、心地よい風にさらされた日差し。
「もう着くぜ」
見えてきたのは駐車場。
伊豆の山の中にある展望台だ。
ここからの景観は良いらしく、休暇の時は誰かが必ずココに来てた。
「ココ、来てみたくってさ」
車を降りて展望台まで来たときにリュウは話始めた。
「伊豆基地にいるのにココに来ないなんておかしいなんてあいつらいい加減なことばかり言いやがって」
あいつらは、私たちの仲間。
今はバラバラになって別の場所にいる仲間。
大きな戦いを共に乗り越えてきた彼らの事。
「近いからいつでもこれるって言わなかったの?」
「言ったさ。近いから行くもんじゃないのか?なんて言われちまったよ」
「いつでも…って、思うからなかなか行かないものなんだけどね」
「あぁ」
私も、リュウと同じように、初めてここに来た。
結構長い間伊豆基地にいるのに。
「綺麗な景色だよな……」
「えぇ、そうね」
いつでもみれる景色なのに。
もしかすると飛んでいるハガネや、PTから眺めた方がもっと良い景色が見れるはずなのに。
私たちはこの景色に感動している。
「このすばらしい景色、壊したくないな」
「うん」
リュウと私が思っているのは同じ。
「この世界を守りたいって思えるからみんな来るのかもな?」
「そう……ね」
世界を守りたい。
大それた事かも知れないけれど。
「リュウ、忘れないで。私もみんなを守りたいって思ってるのよ」
「アヤ?」
「前、ライとこそこそ話してたでしょう?R-3を強制分離させるとか」
いつだったか、ジュデッカとの戦闘直前だったのか…リュウとライは私を守るために、R-3を強制分離させるという会話をしていたのだ。
「……い……いつの話だよ」
にらみつけた私の視線をまるで合わせないのはリュウの癖。
知られたくないように表情を隠す。
「私だけのけ者はやめて?いつも喧嘩してるのにこういうときだけ結託するのはやめて。守りたいと思ってるのはあなたたちだけじゃないのよ?」
「けど…」
「けどじゃない」
なおも反論しようとするリュウを私は止める。
「守りたいと思うのは、私も同じ。みんなで帰りましょう?帰りたいと思うところに」
「そうだな」
私の言葉にリュウは納得してくれたようだ。
勝手に決めてどこか行くのはやめて。
そう叫んでしまいそうになった。
不意に怖くなる時があって、今がまさにそうだったのかも知れない。
「アヤ、……どうしたんだよ……」
驚いた顔してリュウが私を見ている。
「泣いてる」
そう言って涙を指でぬぐう。
「あ、わりぃ」
そう言いながらハンカチを出してくれたけど。
「何謝るの?泣いたのは私よ」
「なぁ理由、言えないかも知れないけど、何かあったら言えよ?」
涙が止まってきたのに気付いたのかリュウは静かに私に言う。
「じゃあ、側にいて」
「………アヤ………」
「冗談よ」
今は、冗談で良いから。
誤魔化したらリュウは苦笑いを浮かべた。
「側にいるよ。アヤが気の済む限り」
「気が済まないかもよ?」
「それでもいいよ。アヤがいいならさ」
「…ありがとう」
私は礼を言うだけで、精一杯だった。
また泣き出しそうで。
戸惑いながら背にのばされた腕に私は安心してその胸に寄りかかる。
「明日から宇宙ね。また隊長にしごかれるのかしら?」
「さぁ。まぁ、今度は大丈夫……………」
「リュウ?」
「って信じたいんだけどなぁ」
「隊長次第なのかもね」
「あぁ」
まだ見ていたい景色を後ろに私達は伊豆基地に戻る。
そして新たないつもの日々が始まるのだ。
結構良い感じになってるよね