「ハァ?アディス、冗談にも程があるぞ?」
「冗談ではないんですよ、バジル宰相」
アディスの言葉にバジルは絶句する。
国王陛下の親衛隊の一人が発した言葉にラルドエードの宰相を務めているバジル・ノーマンはため息をつけざるを得なかった。
国を統べるべき国王が国を出奔したと言うことは前代未聞だと。
初めての出奔。
出奔とは言わないだろう、家出とも違う。
単なる一人旅だ。
港町ピリカから出た船に乗ってクゼルはそう結論ずけた。
そして初めてのと言う言葉にも注釈が付く。
国王になって初めてのが。
セジェス・アクレイアはつい最近、ラルドエードの国王となった。
前王が病死したためだ。
そして同時に守護聖騎士にもなった。
いとも簡単に魔法を覚え、いとも簡単に剣術を身につける。
戦術も覚え、大規模な戦闘の際には作戦を考えるのも当たり前だった。
彼は天才だった。
「だが、それだけではつまらないのだよ」
そう、流れる風に言葉を載せる。
ただの国王として座っているのが好きではないのだ。
政治は宰相が執り行う。
戦闘の指揮は将軍が行う。
セジェスにはそれがつまらないのだ。
元々は、国王になるはずじゃなかった。
彼には異母兄弟と言えるべき兄妹がいた。
その兄妹に任せて自分は楽しんでいようと思っていたぐらいだった。
だが、前国王の遺言と言えるべき言葉がそれを許さなかった。
彼はセジェスを王とすると残したのである。
その為、彼は異母兄弟達と骨肉の争いをせざるを得なかった。
彼の出奔癖はその時に出来たものだろう。
命を狙われては仕方ない。
ただ、最初の家出があまりにも楽しくてその後くせになったのは周囲には秘密だが。
「世界に見聞を広げるのは悪くないだろう。帰ったら帰ったでうるさいだろうし……。まぁ、その時はその時だ」
周囲が苦労するのは知っている。
だが、息抜きする時間も欲しい。
そうクゼルは思っているのだが、しょっちゅうあるのだから彼の参謀のバジルは宰相となった今も出奔に頭を抱えている。
「まぁ、少したったら帰るよ。いくらオレでもいつまでも国を放ってはおかんさ。それに今回はゴルドバに行くという用事もあるのだし……」
と誰が聞いているわけでもないのにセジェスは見えなくなっていくトエルブス大陸の影を見ながらそう呟く。
ただ問題は少しがセジェスの裁量でいくらでも長くなるのだが。
すぐに帰るだろうと思っているセジェスも、帰ってくるだろうと思っているラルドエードの面々もまさか1年も戻らないとは思っても居なかったが。
本名は、キルジュ・モナ・ダンガーバン・アルドリー。アルドリーはエルフ王の証、称号名。
この旅でクゼル様はクゼル・ライエンととっさに名乗ります。
後一個ぐらい偽名有ったような………(笑)。
と言うわけで、セジェス・アクレイアは池田秀一さんです。