初めて見たときから気に入っていた少女。
最初は彼女を遠くから見ているだけだったけれど。
静かな蒼い火の様な彼女に近づくことの出来る自分の身分が今時ほど嬉しかったと思わない訳がなかった。
「ご不満ですか?」
「お父様の命令でしょう?不満も何も……言ってやめてくれる訳じゃないわ」
「申し訳ありません。私の方から先生に進言できれば良かったのですが」
「何言ってるの?そんなこと言える様な立場じゃないでしょう?」
「そうですね」
海藤さんはあたしの言葉にそう苦笑いを浮かべた。
とあるホテルの高級レストラン。
そこにあたしは来ている。
「初めまして、三井華広といいます」
そしてこの目の前の男。
「光栄だなぁ、キミみたいな人が僕のお見合い相手だなんて。お見合いなんて気が乗らなかったんだけど、キミの写真を見て一目で気に入ったんだ」
そうヘラヘラと笑いながらしゃべる軽い男。
お父様の命令でもお見合いなんて断ろうって思ってた。
まさか海藤さんが来るとは思いもよらなかった。
お父様は知っていたの?
あたしの気持ち。
それすら利用しようだなんてやっぱりお父様の事は好きにはなれない。
それにあたしは結婚なんてしたいなんて思わない。
あたしは、あの人を守るって決めたの。
男なんてどうでもいいの。
「レイさん、気が乗りませんか?」
適当に返事をしていたら付き添いの人は海藤さんも含め全員居なくなっていた。
あたしと三井華広だけ。
「乗らないわ」
「そうですか?僕は乗り気なんだけど」
「あっそ」
どれだけ素っ気なくすればこの男は諦めるんだろう。
『トゥルルルルルルル』
携帯が鳴る。
画面を見てみればうさぎから。
とまどいもせず出る。
『レイちゃーん?今どこにいるの?今平気?』
「普通、今平気?って所から聞かない?」
『アハハ、そうだね。ねぇ、今平気?』
「えぇ、問題ないわ」
とまどいもなく続ける会話を三井夏広は見つめている。
『あのねぇ、学校でみんなで映画に行こうっていう話になったんだけど、レイちゃんが平気ならどうかなぁって思って』
『今話題の映画なのよ?レイちゃんもたまにはミーハーぐらいしなさいよ』
『俳優さんチョーカッコいいんだよね』
携帯のむこうがわで賑やかに話しているうさぎと美奈。
こういうとき、同じ学校のみんなが羨ましい。
「どこにいるの?」
『うんとねぇ〜、渋谷のねぇ〜』
うさぎの言う映画館だったら、ココから近い。
「少し待ってくれる。10分ぐらいで着くと思うわ」
『おっけ〜、次のに十分間に合うよ。待ってるね』
「えぇ」
そう返事して、携帯を切る。
「三井華広さん、今回のお話、なかったことにさせてください」
「キミには大事な人が居る?」
踵を返したあたしに彼は背中から声を掛ける。
「違ったこうじゃないよな」
何をいきなり。
無視して歩き出したあたしに彼はなおも言い続ける。
「キミには命をかけるべき人が居るの間違いかな」
「な、何を」
思わず振り向けば彼はすぐあたしの後ろにいた。
「キミにはそれほど重要な人が居る。その人の方がキミにとって大事」
「何が言いたいのよ」
「僕は、表面は蒼いのに、その奥に燃える火の方が気になるんだ。『気高く美しい火のセイの王女』」
この男。
「初めて見たときから気に入っていた。美しい少女」
あたしの髪を掬って彼はそれに口づける。
「会いたかったんだ、レイさん」
そう言って彼はあたしの目を見つめる。
青い空の下で、緑の元で。
あの娘が居て、あの娘の側にあの方がいて、そして………あたしの目の前に。
この記憶は。
「……っっ」
我に返ったときに見えたのは長いまつげ。
「………っっ」
そして、感触。
「な、何するのよっ」
「キミが好きだから」
「会って間もないのに、そんなくだらないこと言わないで」
「一目惚れって言葉知らない?」
「一目惚れしたからってキスする人どこにいるのよ」
「ココ」
そう言ってこの男はヘラヘラと笑う。
「あなたなんて、最低、だいっきらい!!!」
思いっきり平手打ちをしてあたしはその場から逃げる様にみんなが待っている所へ向かった。
「レイちゃん?どうしたんだい?」
着いてすぐにまこちゃんにそんなことを言われた。
どうしたって何があるの?
「レイちゃん?なんか合ったの?」
うさぎがもの凄く心配そうな顔であたしを見る。
何かって合ったけど、うさぎに言える事じゃない。
「泣いてるよ?レイちゃん」
「ちょっと、どうしたのよぉ」
「レイちゃん。何か悩み事あるのならあたし達に言って?相談に乗るわ」
泣いてる?
美奈も亜美ちゃんもそんなこと言う。
鏡を見れば一目瞭然。
あぁ、あたしは泣いてたのか。
でも、キスされたぐらいで泣く?
そんなことあり得ないわ。
あたしは男嫌いだけれども、それぐらいで泣くような性格じゃないと思ってる。
じゃあ、どうして?
理由が分からなかった。
でもポケットの中から取り出した石……コレが理由を教えてくれるような、そんな気がする。
デモ、あの男だけは、絶対に許せないし、嫌いだわっ。
それだけは分かった。
華広をはなと呼んでる人間がすぐ隣にいるからです。
声はもちろんジェダイドをやってた小野坂昌也さん。
見てたはずなのにその後の小野坂さんとジェダイドの小野坂さんが合致してない……。
そのせいで、もの凄い軽い男になりました(モデルはTOSの神子)。