「ルビー色だな。フレイアの色は」
髪も、瞳の色もフレイアの色は赤いルビー色。
「ルビー?カリィはそれを見たことがあるの?」
私の言葉にフレイアは首をかしげる。
フレイアは見たことが無いのだろうか?
イルヴィスならいくらでも持っていそうだが。
「見たこと有るというか持っていたぞ。自分の身を飾るのは好きじゃないが見るのは好きなんだ」
部屋にはたくさんあったな。
装飾を施していない宝石が。
フレイアはオレが造った人形だ。
宝石の色を持った人形を作ろうと思ったのだ。
きっかけは遠い昔に忘れた。
造る段階になってどういう色を使おうかと悩んだ。
そこに浮かんだのはルビー。
強い紫みがかった赤いルビー。
彼女をかたどるのはそれがいい。
心臓の部分にはルビーを入れて、そうすれば髪も瞳もルビーの色になる。
時の流れに取り残されたオレは彼女を造るのに夢中になった。
オレの作業にため息をついているアシュレイをよそにだ。
ため息なんかつかれてもオレは気にも止めなかった。
ただ、造ろうと思ったのだ。
名前はフレイア。
情熱の女神らしい。
よくは知らない。
他の世界のことをオレは別に知りたいと、思わなくなった。
「フレイア」
そう呼べば彼女は小首をかしげて
「何?」
と問い掛ける。
それで十分だと思った。
オレはそれで手に戻したと思った。
彼女の姿形は彼女と同じだ。
ルビーを色に決めたのも彼女がルビーを好きだったからだ。
強い紫みの赤いルビー。
でもオレはその彼女を忘れている。
忘れた変わりにフレイアを手に入れた。
「イルヴィス、ルビーってどんなもの?」
「カリィと何を話しているのだと思ったらそんなことか」
今のオレには大して意味のない宝石。
「そう、カリィが私の髪と目はルビーの色をしているって言ったの。私、ルビーをみたこと無いからイルヴィスなら持ってるだろうってカリィが言ったから」
ルビーは持っていただろうか。
持っていたモノは全てフレイアをかたどるために使ってしまっただろうか。
覚えていない。
「イルヴィス?」
「フレイア、どうしても見たいのか?」
声が震えた気がした。
なぜ、オレの声が震える。
オレは何を恐れている?
フレイアにルビーを見られることをか?
記憶が戻ることがか?
「ただ、気になっただけ。私の色がルビー色だって言うならそれでいい」
震えを感じた?
フレイアはオレの恐怖を感じて見なくても構わないと言ったのだろうか。
「イルヴィス?どうしたの?」
オレの頬に触れてフレイアは聞いてくる。
オレは………。
「フレイア、お前はオレの側にいろ。ドコにも行かず、オレの側にいろ。いいな」
あぁ、彼女はもう居ないのだ。
オレの側にいたはずの彼女は。
「約束するわ、イルヴィス。私は貴方の側にいる。ドコにも行かず、イルヴィスの側に。イルヴィスを一人きりにはさせない………」
オレを胸に抱きフレイアはそう言う。
「ありがとう、フレイア」
そうしてオレは目を閉じ眠る。
「約束するわ、イルヴィス……もう、二度と離れないと……」
「イルヴィスは愚かだよ。自らの記憶を封印し、そしてフレイアの記憶も封印してる。そう思いこませたんだ。自分と、彼女を」
「……何のために?」
「さぁ……そこまでオレは知ってるわけじゃないさ」
………曲を知ってる人は、どうしてあの曲からこんな話が出来上がるのが不思議って思うかも知れませんね。
『時の流れに取り残され、君の名前も少しずつ忘れていく (中略)一人きりにさせない』
ここら辺かな?
この辺でこの話が浮かびました。
ホントは、イルヴィスとフレイアの事は書くつもりなかったんだけどな……。
多分、この先もこの二人は秘密のままな気がする。