トリポリタニア合衆国、マシュー草原。
世界最大の草原とも言われるマシュー草原の中央に幻惑の霧に包まれた場所がある。
火の女神タクラの住む神殿でもあり古代の創造神ドルーアの神殿でもある。
はっきり言えば、オレが古代神の神官になるとは想像もしてなかった。
オレの家はカバネルのカスピで。
カスピのその一角は現代神の信仰者が多く、かくいうオレの家も現代神の信仰が厚い家だった。
そのオレが、まさか古代神のしかも創造神ドルーアの神官になるとは誰も想わなかっただろう。
「まだ、慣れないかい?ココには」
柔らかい口調でドルーア様が聞いてくる。
「いやぁ、なんつーか、自分が古代神の神官だなんて未だに信じられないって言うか」
「1ヶ月経っててもまだ信じられないかい?」
「え?まぁなんつーか」
そう……、オレがというかオレ達が強制的に古代神の所で修行させられるようになってからもう、一ヶ月が経っている。
1ヶ月やそこらで身に染みついた習慣や根本的な考え方が変わるわけじゃない。
こっちは生まれてからずっと現代神の教えって言う奴と付き合ってるから。
とはいえ、ミラノと出会ってから現代神だけじゃなく一応古代神について学ぶことを始めた。
コレは……良いことなんだよな?
まぁ確かにカバネルの中心に居るものとして現代神だけの知識だけじゃまずいことも多々ある。
今までのらりくらりとかわしてきたツケが今に来たとなると……やっぱつらいよなぁ。
もう少しまじめに勉強とか修行とかしとけばよかったと、今更ながらに後悔っていう奴だ。
古代神の神官になって一番戸惑っているのはそこだ。
まじめに古代神について勉強してなかったオレがまさか?古代神の中核と数えられる創造神ドルーア様の神官ってところがあり得ない。
「僕は君が見込み有ると思ったんだよ?」
「マジっすか?」
まじめな顔でいってくるドルーア様にオレは聞き返した。
見込みっていうか……。
まぁ一応スウェルナイトの中では魔法力は高い方だろう。
サガには負けるけど。
あいつのキャパは人間並みじゃねえし。
だからって何の見込みか。
「本当は君の知識欲だね。必要に迫られたから学ぶことにしたって君は言ってたけれど、彼女がこの地に戻ってくることは、ほぼ皆無に近かった。むしろ戻ってこなくてもおかしくないはずだった。戻ってくる理由が君には想像出来なかったから。それでも君が古代神の知識を得ようと思ったのは何故だい?」
「そ……それは……」
なんつーか、旅をしていて、カバネルの中にいるだけでは分からない事があって……。
思った以上に古代神の影響は生活の中に入っているんだなって。
それで自分の知識の…古代神についてほとんど知らない自分に戸惑ったっつーか……。
だから、誰かに聞かれても答えられるぐらいには知識を入れておこうと……。
「普通は、しないんだよ。それを。必要ないから、必要のないものは学ばない。でもいつドコでその知識が必要になるか誰にも分からない。その為に学と言うことは必要になる。僕は知識向上の高い人間は好きなんだよ」
「あ、ありがとうございます」
思わず言葉がどもる。
自分が学んだことに関してほめられるとは思わなかった。
「知らないことを知ることは必要だ。たとえそれが悪だとしても。あとはそれをどう生かすかが重要になる。悪な物を学んだらそれを悪だと理解するだろう?悪な物を知らないままだとそれを悪だと理解することができないんだよ」
ドルーア様の言葉にオレは深くうなずく。
「僕の力はほとんどが知識に埋め尽くされている。あとはどれだけそれを使えるか、かな?君には期待しているよ?カーシュ」
「は、はい」
最初は戸惑った。
今も、戸惑ってる。
でも、このドルーア様の言葉。
オレの力になったと、強く感じた。
連中も修行しているだろう。
どんな修行かはわからない。
けど、大丈夫だよな?
あいつらの助けになるように、しっかりと修行をしよう。
オレは漸く、古代神の神官になる、選ばれたと言うことを理解できたのかも知れない。
いろんな知識。
ドルーア様、こっそり学問の神様決定!!