出会えたのは奇跡なのか分からない。
でも助けてくれる人って必ずいると思う。
だから、私は走り続ける。
森の中を走り続けて、逃げ続けて。
声がしないところまで逃げて息を整えて。
「この辺ってホント?」
「マリーナ嬢の話だとそうだね」
「信用できる?」
「って言うか、エルフの保護を頼んだのは彼女だよ?」
彼等の会話に出てくるマリーナが知っている彼女だと気づき、背後から奴らの気配を感じて私は彼等の前に躍り出る。
「え、エルフ?」
瞬時に敵か味方か判断する必要はなかった。
彼等はワール・ワーズ。
噂では、海の神ラテスの神官だという彼等。
「お願い、助けて。私をどこか遠くへ連れていって……」
それだけ言うのが精一杯。
目を引く金色の髪の男の人が驚いたのを見て私は意識を失った。
「気がついた?」
目を開ければ黒い髪でサングラスで視線を隠している男の人があたしを心配そうにのぞき込んでいた。
サングラスだからどうのぞき込んでるかなんて分からないだろうけど、少なくとも心配されてるなって事だけは分かった。
「ここは……」
あたりを見渡せば質素ではあるけれども質の良い調度品が置かれている部屋。
「ロマーニャの城だよ、俺はクロンメル・ロスレア・エール」
思い出した、ワール・ワーズのギターの男だ。
「知ってる……」
「そうか、エルフにもオレ達は知られてるか」
嬉しそうな声色に彼は悪い人じゃないなって本能的に悟った。
「ちょっと待って、マリーナ、彼女が目を覚ましたよ」
彼が背後に声をかける。
その声にもの凄い勢いでマリーナが私が寝ているベッドに駆け寄ってきた。
「カーラ、どうして…逃げてたって…」
「うん、なんか捕まっちゃってさ……自力で逃げたの。他のみんなはあそこに捕まってなかった……。探してみたけど、気配なくて…」
稀少民族保護条約。
その国際条約は名目上は生まれつき所持している能力または特殊な民族を保護保護だけれども、本当のところはエルフの保護条約だ。
迫害、虐待、奴隷……。
そのように扱われるエルフを保護するために制定された。
月の女神ミディアの守護を受け、現代神の神官を務めている私たちを守るために……。
「人に…邪魔されずに生きていきたかった」
トマスビル大陸に渡った長老が言った言葉だ。
数百年前に。
エルフが迫害を受ける前に。
…長命種のあたしたちと、短命種である人は逢ってはならなかった。
共存は出来ないんだ。
「エルフが……人と一緒にいるのは難しいのかな……」
言葉がふと出てくる。
ずっと一緒にはいれなくても、それでも、あたしは一緒にいたかった。
「君が残されいっても?」
あたしの言葉が聞こえたのか、金色の髪の男の人がベッドの側に来る。
ワール・ワーズのキーボードでリーダーのチェスター・ファルマス・マーゲイトだ……。
「君は人が老いていき死んでいく姿を見つめ続けても?」
声音は優しいけれど、厳しい現実を突きつける。
「君は寂しくないの?愛する人が死んでしまうことを。同じく年を重ねることが出来ないことを。僕は寂しいと思うよ……。それが出来ないことを」
彼の言葉は何処か実感こもっている。
チェスターはエルフじゃない。
完全なる人だ。
でも、どうしてその感情を知っているの?
「チナ・テティス・ウィスムを知ってる?」
その名前を聞いて納得した。
「チナはドコにいるの?」
「ラプテフにいるよ。元気にラテスの神官をやってる」
ずっと彼女はラプテフにいるんだ……。
彼女はあたしの姉代りだった人。
あたしにいろんな事を教えてくれた人。
好きなヒトが出来て、ラプテフに行った人。
その人は昔、リグリアに来たサムライ。
「寂しいのは分かる。でも、一度好きになったらその人は忘れられない。だから、寂しくないの。だって一人じゃないよ。ちゃんとその人が愛した所で生きていけるんだもん」
だからチナは言った。
あたしが好きになるヒトってどんなヒトだろうねって。
自由なあたしだからもしかすると自由な人だろうねって。
「チナと同じ事言うね」
「エルフならみんな言うって言ってたよな」
クロンメルと寝ているあたしからは姿は見えてないけど男の人(多分マレイグ・グリーノック・マザーウェル?)と会話してる。
「そうか……そうだね」
チェスターは笑顔であたしの言葉に頷いてくれた。
その笑顔は優しくて、とても嬉しかった。
サガも本当はいるんだけど、出してません。
状況ももうちょっと書こうと思ったけど、ざっくり削除。
のせいで結構時間掛かっちゃった。