「蘭、ねぇ、いい人がいるんだけど付き合ってみない?」
「……そんな気ないよぉ……」
「とは言っても……蘭に彼氏いないの変だよ」
他のクラスの(同じ委員会でちょっとだけ仲よくなった)女の子にいきなり言われる。
…新一から…連絡がなくなって早くも二週間が過ぎた。
そして、……コナン君…もいなくなってから二週間が過ぎようとしていた。
正しく言えば、コナン君だった新一がわたしの前から駆け出していってから……。
新一から連絡がなくなった…と言うのをどこで聞きつけたのだろう…。
んん、新一が完璧に行方不明になったということをどこで聞きつけたんだろう。
ある新聞に高校生らしき年齢の少年の遺体が発見されたと出ていた。
それを新一だと決めつける人がいて……。
無神経な人達はわたしに彼氏がいないとおかしいとかいって男の人を紹介しようとしている。
わたしにはそんな気が無い。
全然ないの。
わかって欲しいの。
ただ、コナン君……新一の事だけ…考えていたいのに。
他の人の事なんて考えたくないのよ…。
「そんな気ないって言ってもさぁ、会うだけ会ってみてよ。蘭、お願い。薄情な幼なじみなんて放っておいてさぁ」
彼女の言葉に体が止まる。
「ちょっと、そういう言い方ないんじゃないの?」
園子が彼女の言葉を咎める。
「え……だって……」
彼女は詳しい事情は知らない。
わたしと新一が幼なじみだって言うことは知っていても、どのくらい側にいたとかそういうことは知らない……。
ただ、ミーハーに新一を見ていた何も知ろうとしない女の子だから……。
「人の気持ち考えて言いなさいよ」
「いいよ、園子……」
「でも、蘭」
「……いいよ……。ともかく、わたし会う気はないから」
そう彼女に断ってわたしは教室を抜け出す。
行く先は屋上。
よく、新一と一緒にいた屋上。
お昼をよくここで食べていたっけ……。
園子がわたしが作ってきたお弁当をみて
「あら、それ愛妻弁当じゃない」
なんてからかわれてたのが…なんか懐かしい……。
逢いたいよぉ……。
今、どこにいるの?
今、何してるの?
ケガ、してないよね。
つらい目にあってないよね。
どうして何も教えてくれないの?
どうして…わたしが言うまで何も言ってくれなかったの?
一人で…苦しまないでよ。
一人で苦しんでないでよ…。
「新一…逢いたいよぉ……」
屋上の金網に捕まり思わず泣きだしてしまう。
逢いたいの。
あなただけに。
側にいて欲しい。
好きだって言って欲しい。
好きなの。
逢いたいよ……新一……。
「……蘭……」
静かに背後から声をかけられる。
「…園子……」
「大丈夫……じゃ、ないよね……」
園子の言葉にわたしは、かすかにうなずく。
「いつも慰めてくれる生意気なおちびちゃんはどうしてる?」
園子は突然コナン君の事を持ち出す。
園子は知らない。
…コナン君=新一ってこと。
今さらながらに気付かされる。
わたしがどれだけコナン君に勇気づけられていたのかを……。
分かってからは…喧嘩とかいっぱいしたのにね。
「……コナン君はご両親の所に帰ったの……」
そうとしか言えない。
「…そう…なんだ……。じゃあ、淋しいね」
淡々と響く園子の声。
下手に同情されるよりも気が楽。
「何やってるんだろうね、新一君」
「そう……だね……」
「便りがないのは元気な証拠って言うじゃない。どっかで事件解決してんのよぉ、あいつは推理オタクなんだから」
「そうかな」
「そうだよ、そうに決まってるの。思いっきり凄い謎があいつの目の前に燦然と立ちはだかっててさぁそれと格闘してんのよぉ」
と園子は力説する。
「フフ……。そうだよね」
「大丈夫。あいつは蘭の所に帰ってくるって」
園子の言葉に少しだけさっきのことに気が紛れた。
それでも…逢いたい気持ちは変わらない。
逢いたい…。
今はそれ以外のこと考えられなかった。
「どうしたら…いいかわからないんだよね」
「…蘭ちゃん……」
毎日のようにかかってくる大阪からの電話。
相手は服部君と和葉ちゃん。
二人と交互に話してる。
この時間が…一番気が紛れる。
何をやっても気が紛れない今、大阪からかかってくる電話がわたしを支えていた。
コナン君=新一…を知っていて、同じ時を過ごしたから…。
「でな、蘭ちゃん。平次ったらひどいんやで」
「アホ、お前の方がひどいやんか」
電話口で繰り広げられる漫才に思わず顔がほころんでしまう。
そんな二人の会話を聞いて思わずつぶやいてしまったのだ。
「そんなこと…言わんといて…」
「あ…ごめんね、和葉ちゃん。今の気にしないで。わたし…、ちょっと学校で嫌なことがあったの。ごめんね」
心配掛けないようにわたしは謝る。
「何かあったんか?言うてみぃ?」
「そうや、言うて。アタシと平次聞いたるから」
「ちょっと先生に怒られちゃったの。授業中ぼーっとしてたから。来年は受験何だぞって」
嘘。
ホントのこと言えない。
言ったら心配させるだけ。
「何考えとったん?」
「今日の夕飯何にしようかなって。お父さん、麻雀だって言って遅くなるから。作る気なくなっちゃって……」
コナン君(新一)がいない一人だけの夜。
夕飯を自分だけの為に作りたいなんて思えなかった。
「そか?そんならそっちいこか?蘭ねーちゃんが作る料理はうまいもんなぁ、和葉とちごうて」
「それやったら何?アタシが作る料理はまずい言うん?」
「そやろ」
「平次!!!!」
「アハハハハハハ」
服部君と和葉ちゃんのやり取りに思わず笑ってしまう。
どうして、こんな良い二人がいるんだろう。
無神経な人もいるのに。
あまりに感激してしまい涙が出てくる。
「蘭ねーちゃん、辛かったら言いや。気休めぐらいにはなるで」
「そや…。心にためとったらアカン。アホみたいになるで、平次みたいに」
「アホ、何でオレがアホやねん。アホは自分やろ」
「あんなぁ、アホみたいに事件事件いうてんのは平次やろ。ホンマ推理ドアホやねんから」
「な、なんでオレが推理ドアホやねん!!」
「そやろ。推理ものなったらすぐに目の色変える癖に。それを推理ドアホ言わんで何言うん?」
「むーーーーー」
「もう、どうしてすぐに喧嘩するのぉ?もぅ」
止めながらも笑ってしまう。
「ありがとう、服部君、和葉ちゃん。二人のおかげだよ」
「何言うてんねん。そんなこと気にすんなや」
「平次の言う通りや、蘭ちゃんは気にせんといて。アタシら友達やろ。友達心配するのは当たり前やんか…。それにな、アタシ、蘭ちゃんの事好きやもん。蘭ちゃんが元気になることやったらアタシ何でもしたるよ。さんざん愚痴聞いてくれたやんか。このくらいれいしないとあかんし」
「ありがとう」
心優しい大阪の友達の言葉にわたしは心から感謝する。
まだ、大丈夫。
まだ頑張って行けるよ。
コナン君が新一だってわからなかった時だった頑張ってこれたんだもん。
大丈夫。
大丈夫。
まだ…今の所は……。