お母さんが運転する車で新一の家に戻ってきた。
「………蘭、先に入るわね」
玄関で立ち止まっているわたしに向かって、お母さんはそう言い、先に家の中に入っていく。
「蘭ちゃん……大丈夫?」
和葉ちゃんの言葉にうなずく。
けれど、どうしてもここから先には足が動いてくれなかった。
「……動きたくても…動けないの…。変だね。何でだろう……」
理由はわかっていた。
でも、言葉にしたらホントにそうなりそうで怖かった。
「……蘭ちゃん……連れて……来る?」
和葉ちゃんがわたしの様子を見ながら言う。
「待って…行くから……行けるから……」
連れて来てくれるのは嬉しいけれど…恐怖が心の中にあって…わたしはそれを避け自分で行くことを選択したときだった。
「何してんねん」
服部君がなかなかやってこないわたしと和葉ちゃんの様子を見に来たのだ。
「平次……」
助けを求めるような声で、和葉ちゃんは、服部君に呼びかける。
「……ねぇちゃん。どないする?先に逢うか?それとも工藤の両親と話するか?まぁ、詳しいことは、和葉に聞いとるやろけどな」
「………ウン……」
服部君の言葉にわたしはうなずく。
逢いたいけれど……怖い……。
「平次、工藤君はどこにおんの?」
「書斎や。本が一杯ある言うて案内したったら…そこに籠もりっきりや。工藤のオヤジさんの話じゃ。そこには世界中の推理小説が集まってるから飽きないだろうって言うとった…」
服部君は和葉ちゃんの問いにそう応えた…。
推理、小説か………。
相変わらず推理バカなのかな……。
「ともかく、工藤の両親と話しといたほうがえぇやろ。何やしらんけど日本におられる時間がのうなって来とるらしいんや」
「何で?」
「よう分からん…」
「そうなんだ…分かった……リビングに先に行くよ」
服部君の言葉にわたしは家の中に上がる。
そして、リビングに服部君の後を次いで入った。
「蘭君…」
リビングに入ると、思ったよりも元気そうなおじさまとおばさまがそして、お母さんがいた。
「蘭君…、君も聞いたかな?新一が記憶喪失のことを…」
わたしたちがソファに座って少したってからおじさまは聞く。
「ハイ……」
「……そうか……。蘭君には……新一の事で心配ばかりかけてしまっていると思っているよ…。ホントに済まないね」
おじさまは目を伏せながら言う。
「そんな…事ないです。わたしの方こそ…いつもご心配かけてしまっていたと…思っています」
「そうかい」
おじさまはわたしの言葉に静かに微笑む。
「蘭君、実はお願いしたいことがあるんだが…良いかな」
少しの沈黙、おじさまはわたしに言う。
不安になってお母さんの方を見るとお母さんは小さくうなずいた。
大丈夫…ってことね…。
「なんですか?」
「実はね、私達はアメリカに帰らなくてはならないんだよグリーンカードの関係でね」
「……?」
おじさまの言葉にわたしは首をかしげる。
どういうことだろう。
わたしへのお願い事と、アメリカに帰国することと…。
新一も…アメリカ行っちゃうのかな……。
「それでね、新一の事なんだけどね」
あぁ、…やっぱり…なんだ…。
「蘭君がこの家で新一の世話というか…して欲しいんだ!」
「へ?」
そのおじさまの言葉にわたしは驚く。
もちろん同席していた服部君と和葉ちゃんも…。
「グリーンカードって言うのはアメリカでの永住権の事でね…。観光で日本に入って来るのなら別に問題ないんだが…。今回は、仕事の件でも日本に来ていてね…。ワーキングビザの期限が近付いているんだよ…。それでね…新一をアメリカに連れていこうと思ったのだが……。新一は日本を離れられないと思う。蘭君、君がいるからね。だから、これはお願いなんだ。君に新一の側にいて欲しいという…」
「蘭ちゃん、隠さなくてももういいのよ…。わたし達に心配かけないようにって自分の気持ち隠していたのよね…。心配だったの、蘭ちゃんの事」
「おじさま…おばさまっ……」
気付かれていた…。
上手に隠していたつもりだったのに…。
新一に逢いたいこと…新一の側にいたいこと…。
そう思っていたこと隠していたのに…。
この家で暮らすようになってから表に出さないように…していたのに。
気付かれていたなんて…。
それが逆に心配をかけていたなんて……。
ものすごく申し訳なくてわたしはおじさまとおばさまに聞く。
「わたし…なんかで良いんですか?側にいるのが…」
「当然でしょ。蘭ちゃんじゃなくちゃダメなのよ。新一が一番側にいたくて守りたいと思っているのは蘭ちゃんなんだから」
「蘭君、わたしは一つだけ新一にこれだけは守るようにと言ったものがあるんだ。それはね世界で一番大切な人を守ると言うことなんだよ…。新一が守りたいと思っている人は蘭君なんだから、側にいるのは蘭君でいいんだよ」
わたしの問い掛けにおじさまとおばさまは答えニッコリと微笑む。
嬉しい。
新一の側にいる事を許してもらえて。
「話もひと段落したことやし、蘭ねーちゃん着替えてきたらどうや?」
「そうね、蘭、部屋にいって着替えていらっしゃい」
と服部君とお母さんは言う。
今の今まで忘れていた。
自分がまだ制服のままでいたことを。
とりあえず、二人の言葉にうなずき、わたしは自分の洋服がおいてある部屋へと行く。
「蘭ちゃん…大丈夫?」
部屋の外で和葉ちゃんの声が聞こえる。
少し、心細い声。
わたしの事を心配している感じだった。
「大丈夫だよ。和葉ちゃん、心配かけてごめんね」
「そうか…。そうや、平次が言うとったよ…この後工藤君に逢いに行ったららどうやって……。蘭ちゃん、心の準備、出きとんのやったら…」
おじさまとおばさまと話をしたせいでわたしの心はいくぶん晴れ渡ってはいた。
けれど…この後、起こるであろう出来事に少し不安になっていることも事実だった。
「和葉ちゃん、心の準備って言ったらわたしここから出られないよ」
不安で体が動かないのだ…。
新一に逢う。
記憶のない新一…。
そんな新一にわたしはどうやって対応していいのか…悩んでいた。
「何いうとんの……。蘭ちゃんが動かんと何もはじまらんよ。工藤君は蘭ちゃんの事覚えとる…。名前分からんかったときでも蘭ちゃんと同じ名前の花の側に一日中ずーっとおったんやで…不安になることあらへんやんか…」
「そう言う不安じゃないの…。記憶喪失だもの…わたしの事だけ覚えているって言うのは都合よすぎるよ…。わたしが不安になってるのは…そんな新一の前に出たらどういう対応していいか分からないの。戸惑って泣き叫んでしまうかも知れない…。新一のこと…困らせてしまうかも知れない…。それがあって…不安なの…」
新一を困らせたくないのに…困らせてしまう。
冷静でいられる?
新一の目の前に出たら…。
しかも…記憶喪失…。
分からないよ…。
「ともかく…行ってみよ。行かんとわからへんそうやろ?その場の雰囲気にまかせとっても…えぇんと違う?」
「そう…かもね…」
着替えも終わり、わたしはリビングにいるおじさまとおばさまとお母さんに挨拶をし、工藤家の書斎へ服部君と和葉ちゃんとで向かう。
「ホンマ…大丈夫やって…な、平次。工藤君、蘭ちゃんがどんなんなったって困ることあらへんと思うよ」
書斎の扉の前で立ち止まっているわたしに和葉ちゃんは言う。
「そうや、心配することあらへん。困らしたってえぇやんか…好きなように工藤のこと困らしたれ」
服部君もそう言う。
「……開けるよ…」
それを合図にわたしは工藤家の書斎の中に入った。
「大丈夫やって」
「そうやな…」
ドア越しに和葉ちゃんと服部君の会話が聞こえる。
大丈夫。
こころに呟いて…新一の側へと向かう。
大きなソファ…。
そのソファに新一は足を組んでこの部屋に本を読んでいた。
何を読んでるのかな……。
と装幀をみて思いだす。
「四つの署名」
新一が一番好きなシャーロックホームズの話。
新一……なんだ…。
思わず笑いが込み上げてくる。
変わらないよ…。
当たり前だけど…変わってない。
ちゃんと工藤新一してるよ。
サラサラの髪も、本を読むときの癖も、全部、わたしが知ってる新一だよ。
「お帰り、新一…」
ふと、声に出す。
か細い声だけれども、静寂を破るには充分な大きさの声だった。
わたしがいる事に気がついたのか新一は顔をわたしの方に向ける。
「……………あ……えっと………蘭……だよな」
久しぶりに新一の声で聞いたわたしの名前…。
優しいテノールの声色…。
声を聞いて新一がそこにいる事を実感する。
新一はふと立ち上がりわたしの側へとやって来る…。
「……はじめ…」
「言わないで…。それ以上言わないで…」
新一の言葉をわたしは止める。
涙が出てくる。
「………でも……」
「言わないで…わたしはあなたのこと知ってるのに…その言葉聞きたくない……」
何を言おうとしているのかが分かって…聞きたくないから、その口から紡ぎだして欲しくないから…わたしはその言葉を遮った。
泣きだしてしまったわたしを新一は少し戸惑いながらも抱き締める。
「泣くなよ……」
少しの沈黙の後聞いた言葉。
「泣くなよ…頼むから…。オレ…オメェに泣かれたくないんだ…。オメェには…いつも笑っていて欲しいんだ…」
「え………」
何が原因で涙が出ているのか分からなくなっている状況だった。
「困るんだよ、オメェに泣かれると…。どうしていいか分からなくなっちまうんだ…」
顔をあげ、新一の顔を見るとホントに困った様子でわたしの事を見下ろしていた。
「ごめんね、泣いちゃった…」
「気に…するなよ……。ちょっと…座らねぇか…」
そう言って新一はわたしをさっきまで自分が座っていたソファに促す。
そして、わたしが座ったのを見計らって新一は言う。
「あのさ……蘭。また、オレオマエの事泣かしちまうと思うから…最初に謝っておく」
「………うん」
「あのさ……蘭……。蘭の事…覚えてなくて……ごめん……な…」
そう新一はホントに申し訳なさそうにわたしに謝る。
「新一が謝ることないよ。しょうがないもの…」
「けど…な……」
その新一の言葉にわたしは首を横に振る。
新一が悪いわけじゃない…。
新一のせいで記憶喪失になったわけじゃないんだもの…。
「蘭、謝らせて欲しいんだ。覚えてないこと、心配かけたこと全部……。服部か和葉ちゃんから聞いたかもしれないだろうけど…。オレ…蘭の事少しは覚えてたんだぜ。微笑みも泣き顔も…覚えてて…それからずっとこうしたいって思ってたんだぜ」
そう言って新一はわたしの事を抱き寄せる。
……なんか…違う。
何か違う。
新一っぽくない!!
な、なんか大胆すぎない?
気のせい?
やっぱりそれは記憶喪失のせいだから…?
なのかなぁ…。
「蘭?どうしたの?」
新一の態度に戸惑っているわたしに新一は不安そうに声をかける。
「え…どうしたのって……何が?」
そう言って新一の方に顔を向けるとやはり新一は不安そうにしていた。
…不安なんだ…。
心細いんだ…。
新一にとって今のわたしは記憶の中にある唯一の存在。
記憶のない自分と記憶のある自分をつなぎ止める存在なんだ…。
拒絶なんて出来る訳ないじゃない。
それでなくても…ずっと…こうして欲しかったのに…。
「新一…」
「何?」
不安が顔ににじみ出ている新一にわたしは優しく声をかけ言葉を紡ぐ。
「心配しなくてもいいよ。わたしは新一の側にいるから…。ずっといてくれた分…わたしが側にいてあげるから心配しなくてもいいよ」
まるで泣きだす寸前の子供のような新一を安心させるようにわたしは言った。
今までは逆だったのにね……。
なんて思ってはみても…やっぱり新一は記憶喪失なんだ…。
と言うことが改めて思い起こさせられた。
「ホントか?蘭」
わたしの言葉を聞いた新一はホントに子供の様に顔を輝かす。
「ホントだよ。ウソは言わない」
「良かった」
新一はホントに嬉しそうに言う。
良かった…。
新一の笑顔を見てわたしはほっとした。
…今までわたし自分の事ばっかり考えて新一のことを考えてなかった。
ホントは新一の方がわたしの何十倍も辛かったこと…。
わたしが新一の側にいて新一が安心することが出来るのなら…、わたしは新一の側にいるよ。
「ちょっとえぇか?」
そう言って服部君と和葉ちゃんが部屋の中に入ってくる。
「あ……すまん、取り込み中やったな。まだオレら外におるわ」
新一がわたしを抱き締めていることに気がついたのか服部君は和葉ちゃんを促して外に出ようとする。
「まてよ…。話があるんだろ」
そう言いながら新一はわたしに回していた腕を放す。
「えぇんか?」
「構わない」
「そうか?工藤、オマエのオヤジさんが話ある言うてたで」
服部君は新一の言葉に頷く。
と丁度その時おじさまが和葉ちゃんと共に書斎に入ってきた。
「新一、オレと有希子はアメリカに帰らなくちゃならないのだが、新一、構わないね」
おじさまは、改めて新一の意志を確認するために新一に聞く。
「構わないよ…、別に。オレは…アメリカには行かないけれど」
おじさまの想像通り新一は自分の意志をおじさまに話す。
「分かっている。オマエが日本から離れられないことぐらいね。新一、蘭君がこの家でオマエと一緒に暮らすことになったんだが…それも構わないね」
そう言ったおじさまの言葉に新一は確認するようにわたしを見つめる。
そんな新一にわたしは頷く。
「ホントに、蘭はココに居るの?」
「あぁ、蘭君は新一の側に居てくれるそうだ。蘭君、新一の事、お願いするよ」
おじさまのその言葉にわたしは改めて答える様に頷く。
「そっか…。蘭、よろしくな」
「わたしの方こそよろしくね。新一」
わたしと新一がお互いに言葉を掛け合ったときだった。
「優作、早くしないと飛行機に今日中に乗れなくなっちゃう!!」
とおばさまが書斎の方に入ってきたのだ。
「今、行くよ。じゃあ、私と有希子はアメリカに帰るが、何かあったときは連絡して欲しい。新一、覚えてないかも知れないが…自分が一番大切だと思うものの為に強くなりなさい。いいね」
「蘭ちゃん、新一をよろしくね。新ちゃん、ちゃんと蘭ちゃんを守ってね」
そう言っておじさまとおばさまはアメリカに帰っていった。
工藤邸に残ったのはわたしと新一と服部君と和葉ちゃん。
お母さんはおじさま達を車で送っていった。
「何か、すっかり服部君達には心配かけちゃったね」
「かまへんって。蘭姉ちゃんが気にすることやないやろ。オレと和葉が好きでやっとることや。なぁ、和葉」
「そうや、蘭ちゃんは気にすることやないねんよ。ホンマに…あんときの蘭ちゃん見てられへんかったんやし…。せやから、ホンマ工藤君が戻ってきて良かったって素直に思うわ。蘭ちゃん、元気になったしな」
と和葉ちゃんはホントに嬉しそうに言ってくれる。
「…蘭…元気なかったのか?」
和葉ちゃんの言葉に新一はすこし哀しそうに言う。
「え…まぁ、なぁ…なぁ、平次」
「な、なんでオレに……。…そや、蘭ねーちゃんは全然、元気あらへんかったで。あんなん嬉しそうに笑うの見たんは…久しぶりやな、和葉」
「そうやね…」
和葉ちゃんと服部君の会話に気がつく。
そう言えば、わたしさっきからずっと頬緩みっぱなしかも……。
新一が側に居てくれるから…かな。
そう思うと自然に笑みがこぼれるような気がして…。
…新一が居なくなってから…。
毎日が不安との戦いだった。
不安に押しつぶされそうになって…。
でも…、これからは大丈夫よね…。
「服部君、和葉ちゃん、二人はこの後どうするの?」
わたしの言葉に二人は顔を見合わせる。
そして少しだけ内緒話。
「あれ、実行しよか」
「そうやね。とすると…電話せんと」
「そやな」
そして、おもむろに携帯を取りだし、電話する。
「あぁ、オレや。今か?今はあそこや。さっき電話したやろ。ん?あぁ、こっち来たったらえぇよ。ほな、またな」
そう言って、服部君は電話を切る。
「どこに掛けたんだ」
「ちょっとなぁ」
そう言って服部君は誤魔化す。
多分……あの二人かな?
なんて予想を立ててみる。
どうしてだろう。
なんでこんなに心が軽いんだろう。
新一が、ちゃんと側に居てくれるって分かっただけでこんなにも心が軽くなれる。
どのくらい話していたのだろうか。
玄関のチャイムがなったことに気付く。
「ん?あいつらやな」
「じゃあ、わたし行ってくるね」
わたしは3人に声を掛け玄関に向かう。
玄関を開け、外にいる人物に中に入るよう声を掛ける。
そして、玄関が開いたときだった。
たくさんの花びらが一瞬のうちに表れわたしに降りかかってきたのだ。
「……え?」
そして吹雪のような花びらの嵐の中から白い衣装に身を包んだ彼の人物が現れたのだった。
「お元気ですか?美しいお嬢さん。あなたの美しい笑顔を拝見しにこうやって参上させていただきました。願わくば、あなたのその美しい微笑みが二度と消えないことを祈って」
「びっくりさせないでよ…快斗君」
わたしの言葉に快斗君はシルクハットを取りムネの前に持ってくる。
「いえいえ、私は黒羽快斗ではありませんよ。あなたの美しい微笑みを盗みにきたしがない怪盗ゆえ…」
「そのセリフ彼女が見ている前でも言えるの?」
快斗君の後ろに青子ちゃんの姿を認めたわたしはそう言う。
「今回は、許可を頂いていますから」
と少しだけ視線を後ろに向けてそう言う。
「ホント青子ちゃん」
「何かね、快斗がやりたいことがあるんだって」
「やりたいことって?」
青子ちゃんの言葉にわたしは快斗君にそう聞く。
「ん?…それはね…」
と言いながら視線をちょっとだけずらしニヤリと微笑んだ後、わたしに顔を近づけてきた。
「か、快斗君?」
その、瞬間だった。
「テメェ!!!人の女に何するんだよ!!!蘭から離れろ!!」
と怒声がわたしの後ろから聞こえてきた!!
振り向くと新一がものすごい形相で快斗君をにらみつけていたのである。
「何や、遅い思うたら遊んどったんか?」
「快斗君、青子ちゃんきたんやね」
とその後ろに、服部君と和葉ちゃん。
「…オイ、聞こえてなかったのかよ。蘭から離れろ!!!」
「あのさぁ、今さっき新一…凄いこと言わなかった?」
快斗君は新一の言葉を無視するようにわたしに言う。
「わたしも…聞いたような気がする」
「ところで…そうなの?蘭ちゃん」
青子ちゃんがわたしと快斗君の会話に入ってくる。
「そうなん?蘭ちゃん」
「いつの間にそんなことになっとったんや?」
「新一、言ったの?」
と新一以外の4人。
えっと…えっと…えっとぉ?
「あ…え?あの…言われてない…かな?まだ…」
わたしの言葉に4人は新一の方を向き小声で話し始める。
「誤解しとるんやな」
と服部君。
「ホントに?」
と青子ちゃん。
「実は誤解じゃなくって本気だったりして」
と快斗君。
「ホンマは記憶あったりして」
そして、和葉ちゃん。
「まぁ、それはないな」
「言うてみただけやって…。それやったら誤解しとるとしかないと思うねんけど」
誤解って何の誤解だろう。
まぁね、確かに告白してないし、されてないけど。
新一が、ちゃんともとに戻ってから言うって言ってたから…。
でも、知ってるけど。
「な、なんだよ」
そんな四人に新一は声をかける。
「工藤、蘭ねーちゃんはまだオマエの女やないで」
「平次、わざわざ言わんでもえぇやんか」
「え……」
服部君と和葉ちゃんの言葉に新一は戸惑う。
「あ、あのね…新一」
「え…あ…さっきはごめん。蘭のこと……抱き締めちゃって…」
そう言って新一は哀しそうにうつむく。
「蘭は…他に好きなやつが居るんだよな…。ごめん」
そう言って新一は話を進めていく。
ちょっちょっと待ってよぉ!!
どうしてそう言うことになるの?
もう、みんなのせいよぉ!!!
「ちょっと待って、新一。あのね、さっきのこと嫌じゃなかったのよ。大丈夫だから、新一は気にしなくてもいいんだから」
なんかいつもと立場逆転してない?
はぁ、もう何ナノよぉ。
「蘭、一つ聞いていいか?」
「何?」
新一の真剣な声にわたしは身構える。
「オレと蘭って……どういう関係!!」
えぇ、もう聞かれちゃうわけぇ?
みんなのせいよぉ!!!
みんなが余計なことしなければわたしはこの質問から避けていられたのに。
わたしと新一の関係。
どうなんだろう。
取りあえずまだ幼なじみ。
なんだよね、表向きは何だけど。
でも、わたしは新一の気持ちを知っていて…、新一もわたしの気持ちを知っていて…。
けれども、お互いにちゃんと顔をあわせて告白してないような気がする……。
顔を合わせてというか向き合って…。
そう言えば…告白されたような気がするけれど…新一はあれは告白とは言わないって言うんだろうなぁ。
「蘭…」
「……………取りあえず、……………まだ…………幼なじみのまま………かな?」
正直に答える。
こんなところで下手なウソを付きたくない。
そう思った。
「そっかぁ…」
そして、わたしの言葉に少しだけ…寂しそうに言った新一の声が、何故かひどく心に残った。