「平次、目暮警部には電話したん?」
和葉が不意に聞いてくる。
「いや、まだしてへん。大阪の方がどないなっとるかわからへんかったからな」
「それに、その様子じゃ多分、何も教えてくれなさそうだぜ。取りあえず、この場所を目暮警部に言って、ココを離れたほうがいい。この後どう転ぶか分かったもんじゃねぇからな」
快の言葉にオレと和葉は頷いた。
「取りあえず、青子に電話してみるよ」
工藤の家に戻る道すがら快は青子ねーちゃんに電話をした。
青子ねーちゃんと会話しとる途中、快は顔をしかめる。
「わかった…取りあえず、オレ達も戻るから」
そう言って快は電話を切る。
「どないしたんや?快」
「……新一の家の前に、新一と蘭ちゃんの知り合いの刑事がいたそうだ。佐藤刑事と高木刑事の二人がね」
と快はオレの問いに応える。
高木刑事と佐藤刑事言うたら……組織の事件の時に東京から出向してきた刑事やんか…。
「なんでその刑事が工藤君の家の前におったん?」
「……工藤が……狙われとる言うのが…ホンマやっちゅうことや…」
オレの言葉に和葉はうつむく。
「ともかく、目暮警部に電話してみるわ」
そう言ってオレは何故か知っとる警視庁捜査一課強行犯3係に電話する。
でたのは運良く目暮警部やった。
オレは軽く士道譲のことを警部に聞いてみた。
帰ってきた言葉は案の定
「士道譲のことは…君たちには関係のないことだ」
と言われた。
「せやけどな、そう言われたかて、オレらもう知ってんねんで。士道譲が工藤の事狙うて奈良から大阪に護送されとる間に逃げよったっちゅう事をなぁ。オレは、今、工藤の家にいる。ホンマのこと知る権利あると違うん?」
「……我々は何も知らん」
目暮警部は口を割ろうとはしない。
「我々が知っていることは、工藤新一には士道譲の件には関わらすなという達しが来ているだけだ」
「理由は知っとるのか?」
オレの言葉に目暮警部は困惑した。
「服部君、我々も困惑している。工藤君の事だ、士道譲が自分の事を狙っていると知ったら確実に動くハズなのに、それなのに、工藤新一にはこの件に関わらすなと来ている。訳がわからんよ」
目暮警部は小声やったがはっきりと聞こえるようにオレに言う。
……警視庁には知らせんかったんか?
工藤のこと…。
「警部ハン…、工藤が記憶喪失になっとる言うこと知らんのか?」
「な…に…」
目暮警部は知らんかったようやった。
「工藤は…今、記憶喪失や。そのせいで工藤は動かれへん。大阪府警もそのこと知っとる。……工藤にこの件に関わらすな言うたんは大阪やろ?記憶のない工藤が危険やからこの件に関わらすな言うてるんと思う」
「…何と…言うことだ…」
「目暮警部、多分、士道譲は工藤が記憶喪失になっとること知らん。その前に、士道譲を士道譲と確認したいんや…。今、士道譲はどこにいるんや?」
オレの言葉に、警部は少し考え込む。
無理ない。
探偵やけど、一介の高校生に事件の事話すわけにはいかんやろな…。
「服部君、奴は、2.3日前に都内に潜入したと情報が入った。そこから足取りはつかめていない」
そう言うた。
「オレらが…観たのが士道譲やとしたら……。目暮警部、士道は杯戸町のKっていう雑居ビルの前で見た。確認してくれへんか?そのビルの中に入ったから…」
「分かった…。だが、どうして士道譲を知ったんだ?」
「分からん……ただ、蘭ねーちゃんが襲われたんや…そいつにな」
オレの言葉に目暮警部は頷き、そのビルに刑事を派遣してくれる言うことになった。
そして、オレ達は言葉すくなに工藤の家に戻った。
家に戻ってきてから蘭が少し元気のないのが気になった。
大丈夫とあの時点で言ったもののやはり大丈夫ではないらしい。
「青子、ちょっと快斗と話してくるね」
そう言って青子ちゃんは部屋の外にでて電話をしている。
「大丈夫か…蘭」
「うん……大丈夫だよ…」
そう言った蘭はやはり頼りなさ気だった。
いつか壊れてしまいそうで怖くなった。
「蘭…守るから…オレが…君のこと…守るから」
「新一…」
今にも壊れそうな蘭を見てオレは強烈にそう感じた。
オレの側にいる蘭をこれ以上哀しい目に合わせたくない…。
強く感じた。
そして、帰り道で考えていたことを蘭に告げる
「蘭が危険な目にあったのは。多分…オレのせいだと思う。そんな気がしてきた…。何もない蘭を、狙うはずがないだろう…だとしたら、蘭の側にいるオレしかない…」
考えて考えた結果、オレの中でそう結論づけられた。
だから…オレは蘭の側にいられない。
「だから…オレ…蘭の」
蘭の側から離れることで…蘭を守れるのなら…オレは…蘭の側を…離れようと…思う。
オレが側にいる事で、蘭が危険な目にあうのはまっぴらごめんだ。
「だから…蘭の…側を離れるよ」
「どこにも行かないで!!!」
最後まで言わない前に、蘭に言葉を遮られる。
「蘭?」
「どこにも行かないで。いやなの、もうおいてけぼりにされるのは。側にいて、…側にいて欲しいの。新一には…側にいて欲しいの」
オレをつかみ蘭はそう叫ぶ。
その声はあまりにも悲痛な声で…。蘭は…察知してしまったんだ。
オレの考えを…。
「側に…いても良いのか?」
「危険とか危険じゃないとかどうでもいいの。新一が側にいてくれなきゃやだよ…」
そう言って蘭は泣きだしてしまった。
「側にいてよ…。約束したじゃないのよ…。戻ってきたらずっと側にいるって…側にいてくれなきゃやだよ…新一」
子供のように蘭は言う。
そんな蘭の腕を引き抱き締める。
「ゴメン、蘭…。蘭の側にいるよオレ。側にいて蘭の事守るよ…。どれくらい出来るか分からないけど…それでも…良いって言うなら側にいるよ」
「それでもいい…。いなくなるより側にいてくれるほうが全然いい…」
蘭はオレにそう言った。
少したち、服部君達が戻ってきた。
「服部君、ちょっといいかな?」
わたしは新一がいない間に服部君に言いたいことがあった。
多分、気付いたのは服部君だけだから…。
トロピカルランドでの出来事…。
新一はその時快斗君と言いあいしていたから気付いてない。
快斗君も同じ。
あの時目が合ったのは服部君だけ。
だから…きっと気付いてるハズよ。
「なんや?ねーちゃん」
「さっきのことなんだけど…」
わたしの言葉に服部君は気がつく。
「ココじゃアカンか…。分かった、ココやないところで話そう。和葉、オマエも来い」
「何で?」
「工藤には知られたくないんやろ?せやったらオレと蘭ねーちゃんでおるよりも、オマエもおったほうが工藤には怪しまれんですむやろ」
和葉ちゃんの言葉に服部君は応える。
その言葉に和葉ちゃんは納得して、わたし達は2階のわたしの荷物がおいてある部屋へと向かったのだった。
「で、さっきの事ってなんやの?」
部屋に入ると和葉ちゃんが聞いてくる。
「トロピカルランドのレストランでの事やろ」
服部君の言葉にわたしは頷く。
やっぱり気付いていた。
「何があったんや?あの時。姉ちゃんが席に戻ってくる前に…」
「あの時、わたし声を掛けられたの。『工藤新一の知りあい』だなって…」
「ウソ…平次、気付いてたん?」
和葉ちゃんの言葉に服部君は頷き言う。
「まぁな。せやけど、工藤に知らす訳にはいかんかった。記憶のないアイツが知ったらどうなるか分からんかったからな。それにねーちゃんがどないな状況になっとるのも分からんかったしな」
服部君の言葉にわたしは頷き、話を続ける。
「最初はね、何を言われてるのか分からなかったの。いきなりだったし…、でも2度も言われたの。『工藤新一の知り合いの毛利蘭だな』って」
「……」
わたしの言葉に二人は驚く。
「ソレにね…突き飛ばされた直前に囁かれたの。工藤新一の知り合いだなって」
うつむいたわたしに二人は何も言葉が継げないでいた。
「ねぇ、服部君、和葉ちゃん。新一、狙われてるの?ホントのこと言って」
顔をあげて言ったわたしに二人は顔を見合わせ…頷いた。
「新一…気付いてる。わたしが危ない目にあったのは自分のせいだって。ねぇ、わたしどうしたらいい?新一にはこれ以上、危険な目にあって欲しくない。でもわたしが危険な目にあったら新一は心配するに決まっている。どうしたら…いい?」
答えのでない迷路にはまったかのようにわたしの中は混乱していた。
どうしていいか分からない?
新一はわたしを危険な目に合わせないためにわたしから離れようとした…。
またもし、わたしが危険な目にあったら今度こそ、わたしの側からいなくなってしまうだろう…。
そんな気がした。
どことなく沈んだ夜をこえると次の日はクリスマスイブだった。
今日はパーティをしようと服部の提案で今夜は家でホームパーティを催す事になった。
とは言っても宴会の様な物だが。
「オハヨ、新一」
「おはよう、蘭」
ベッドの中で言っているはずの言葉をもう一度、リビングでかわす。
「パジャマのままじゃなくってちゃんと洋服に着替えてから言いたいの」
と言う蘭の意向をくみ取ったカタチだ。
「新聞、取ってくるね?」
「あ、良いよ。オレが取りに行くよ」
毎朝、門のところにおかれていく新聞を取りに行くのはオレの役目だった。
けど、こんな日に限って蘭は取りに行くという。
「寒いよ」
「分かってるよ、新一」
そう言って蘭は門の所に新聞を取りに行った。
「ふぁあああ、オハヨ、工藤君」
「おはよおさん、工藤」
そう言って起きてきてきたのは服部と和葉ちゃんだった。
「みんなオハヨ」
「おっす。ねみぃなぁ……」
そして次に起きてきたのは快斗と青子ちゃん。
「あれ?蘭ちゃんは?」
「外に新聞取りに行ったよ」
青子ちゃんの言葉にオレは応える。
「いつ取りに行ったんや?」
服部が少し険しい表情でオレに問い掛ける。
「いつって…お前らが起きてくる…前…」
言っていて気がついた。
蘭が戻ってくるのが遅いのを…。
リビングの窓から外を見る。
蘭の姿が見えない……。
そのかわりに、門の所で何かが散らばっているのが見えた…。
「工藤!?」
服部の声を後ろに聞きながらオレは家を飛びだし門の所へ向かった。
門の所にあったのは…落としたのであろう新聞と広告。
「……蘭ちゃんは……どないしたんや?」
和葉ちゃんの声がどこか遠くで聞こえる。
ウソ…だろ…。
蘭、蘭、どこに行ったんだよっ!!
「快斗、大変。この電話何か変だよ。声が変だし…それに…蘭ちゃん誘拐したって言ってるの」
そう言って青子ちゃんは子機を持ちながらこっちへ向かってきていた。
「何だって?」
快斗がとるよりも早くオレはその子機を青子ちゃんから奪い取った。
「蘭を…どうした」
「…工藤新一だな」
…声がおかしい。
変声機で声を変えてやがる。
「蘭は、どうした?」
「この娘がそんなに可愛いか」
下品な笑い声が恐ろしく聞こえる。
変声機で声を変えているから余計に性質が悪い。
「蘭をどうした…」
「この娘は無事だ。助けてほしかったら、オレの言うことを聞くんだな」
そう言って電話が切れる。
「……工藤…なんて言ったんや…」
「……」
蘭…オレのせいだ…。
「工藤……答えろや」
…オレのせいで…蘭がさらわれたんだ…。
「工藤、ハよ言わんかい!!蘭ねーちゃんはな、オマエをおびき出すために連れ去られたんやで。自分のこと責めとる場合か!!!!」
服部の言葉にオレは我に返る。
「…だけどな」
「…こんなこと言いたかないけどな……。…今のオマエに…何が出来る言うねん」
「平次っ。ちょっと言いすぎやって」
和葉ちゃんが服部の言葉に非難の声を上げる。
「和葉ちゃん、良いんだよ…。服部の言う通りだ。オレには何も出来ないよ…」
そう、オレには何も出来ない。
蘭を守るって約束したのに…。
蘭を助けることも………。
「…相手は…、オマエが記憶喪失って言うことに気付いてないはずだぜ。だから、オマエをおびき出すために蘭ちゃんをさらい、オマエの所に直接電話をかけてきた。」
「…快斗…」
「取りあえず、家の中に戻ろう。あせたって仕方ない。焦りこそ犯人の思うつぼだぜ」
と快斗はオレ達に冷静な声でそう告げた。